研究実績の概要 |
SLC26A6はこれまでに膵臓、および小腸上皮刷子縁に発現が報告されている陰イオン交換輸送体であり、小腸ではシュウ酸イオンの腸管管腔側への排出機能を担っている.シュウ酸の約90%は肝臓によるアミノ酸の代謝過程で生成され、残りの10%がホウレン草などのシュウ酸を含む食品摂取によって腸から体内に吸収される.これまでの研究により,食品によるシュウ酸摂取の方が血中シュウ酸濃度に与える影響が大きいこと分かっている.そのため本研究ではマウス動物実験によりシュウ酸を強制経口投与し,唾液腺に発現するSLC26A6の機能と唾石形成の因果関係について調査することを目的として研究をスタートさせた.Slc26a6ノックアウトマウスの輸入のためのMTA(MaterialTransferAgreement)を米国の大学との間で締結したが,飼育施設のヘルスレポートの結果から一部当大 学動物実験施設の受入条件を満たさず生体での輸入を断念せざるを得なかった.そこで米国内でノックアウトマウスの凍結精子作成を依頼し,ドライシッパーによる精子輸入と精子凍結を行なった.これと同時並行でワイルドタイプマウスであるFVB/Njマウスに対し,0.1, 1, 10, 100mg/Kgシュウ酸の2週間の経口投与による唾石形成を確認する実験を行ったが,シュウ酸カルシウムの経口投与が生体にとって致死的であることから生存率が30%と実験継続が困難となった.しかし2週間生存したマウスの舌下腺,顎下腺,そして腎臓組織切片をピゾラート染色法により染色したところ,黒色のシュウ酸カルシウム結晶の沈着が全ての組織において認められた.以上の結果より,シュウ酸カルシウムの経口投与は腎臓だけでなく,顎下腺,舌下腺においてシュウ酸カルシウムを沈着させることから,シュウ酸の過剰摂取は腎結石同様,唾石症の原因にもなり得ることが示唆された.
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