研究課題
本研究では、これまで明らかにされてこなかった間葉系幹細胞が分泌するTrophic因子による組織再生の分子メカニズムを間葉系幹細胞であるADMPC(脂肪組織由来多系統前駆細胞)を解析することで明らかにすることを目指す。さらに、ADMPC培養上清が歯周組織構成細胞の細胞機能に与える影響を解析することで、Trophic因子の歯周組織における分化制御・炎症応答・血管新生での役割も明らかにし、同再生効果におけるSemaphorin7aの役割も明らかになるものと考えている。平成30年度は、間葉系幹細胞におけるSemaphorin7a発現について解析を行った。まず、ADMPC、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、皮膚線維芽細胞を用いて、各細胞の培養上清の回収を行い、ショットガンプロテオミクス解析により、各細胞におけるSemaphorin7aの発現について検討を行った。その結果、ADMPCと骨髄由来間葉系幹細胞においてSemaphorin7aの発現が確認され、ADMPCは骨髄由来間葉系幹細胞より発現量が多いことが明らかとなった。また、当研究室にて既に樹立している4系統のADMPCを用いて、ショットガンプロテオミクス解析により、各系統のSemaphorin7aの発現量を検討した。その結果、全系統のADMPCにおいて、Semaphorin7aの発現が確認された。さらに、ADMPCの細胞機能とSemaphorin7aの発現について、上記の4系統のADMPCを用いて解析を行ったところ、増殖率が高いADMPCにおいてSemaphorin7aの発現量が低く、増殖率が低いADMPCにおいてSemaphorin7aが高い傾向が認められた。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度の研究においては、ADMPCのプロテーム解析の結果から、ADMPCの細胞機能と間葉系幹細胞由来Trophic因子の一つであるSemaphorin7aとの関係性において、新たな知見が得られたため、おおむね順調に進展していると考えている。一方で、ADMPC由来のSemaphorin7aが歯周組織構成細胞の細胞機能に与える影響については、ADMPCにSemaphorin7aの発現を抑制するsiRNAをリポフェクション法にて遺伝子導入を行ったが、ADMPCへのSemaphorin7aのsiRNAの導入が奏功しなかった。そのため、平成31年度の研究では、エレクトロポレーション法等の他の遺伝子導入法を用いて、ADMPCへのSemaphorin7aの導入を行い、Semaphorin7a抑制ADMPCを用いることで、ADMPC由来のSemaphorin7aが歯周組織構成細胞の細胞機能に与える影響についても解析が可能となるものと考えている。
平成31年度は以下の実験を予定している。1)Semaphorin7aが歯周組織構成細胞の細胞機能に及ぼす影響の解析Semaphorin7aが歯周組織構成細胞である歯根膜細胞(以下、HPDLと略す)の増殖能や分化能、 遊走能、アポトーシス抑制能に及ぼす影響について検討し、その分子機序を明らかにする。さらに、HPDLを硬組織形成誘導培地 にて培養した際の硬組織形成細胞関連遺伝子発現、Alkaline Phosphatase活性、石灰化ノジュール形成能に対して、Semaphorin7aがいかなる影響を及ぼすのかについて検討する。さらに、我々が明らかにしたADMPC培養上清によるHPDLの硬組織形成細胞への分化促進作用がSemaphorin7aを介したものか否かについて解析する。すなわち、Semaphorin7aの発現を特異的に抑制するsiRNAをエレクトロポレーション法にて導入し、ADMPCの培養上清を回収し、同培養上清を用いてHPDLを硬組織形成誘導培地にて培養を行い、ADMPC由来Semaphorin7aがHPDLの硬組織形成細胞への分化に与える影響について解析する。2)ADMPC由来Semaphorin7が歯周組織における血管新生制御に及ぼす影響の解析ADMPC培養上清が血管内皮細胞(以下、HUVECと略す)の管腔形成能、遊走能、HPDLの血管周皮細胞様の働きに及ぼす影響について 、細胞間コミュニケーション解析を用いて明らかにする。すなわち、ADMPC培養上清の存在下、非存在下にてHUVEC単独または、 HPDLとHUVECを3次元培養し、各細胞の形態変化と管腔形成を経時的に解析する。また、ADMPC由来培養上清がHUVECの遊走に及ぼす影響について解析する。さらに、同血管新生制御にSemaphorin7aが関与するか否かについて解析する。
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