本研究課題は,糖尿病が歯周炎病態に及ぼす影響を明らかにすることを目的にしており,特に歯周ポケット内の低酸素下での炎症関連反応についても検討を行った。 口腔上皮細胞において最終糖化産物(Advanced Glycation End-products:AGEs)の刺激により分泌誘導されたLipocalin 2 (LCN2)の機能について,そのsiRNAを用いて検討を行ったところ,LCN2は好中球でのIL-6発現をネガティブに,好中球の遊走性はポジティブに制御していることが示された。AGEsは,LCN2を介して糖尿病関連歯周炎の病態に複雑な影響を及ぼしていることが示唆された。 一方,低酸素環境による口腔上皮細胞への影響を検討したところ,Hypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)の蓄積が増加した条件で,RAGEやTLR2の発現に著しい影響は認められず,IL-6およびLCN2の発現は正常酸素濃度下と比較して軽度減少する傾向がみられたが,有意な差は認められなかった。また,MAPKとNF-κBのリン酸化への影響を検討した結果,低酸素環境によりERKのリン酸化は低下した一方,p-38とNF-κBのリン酸化は増加傾向を示した。さらに,正常酸素濃度下でAGEsにより増加したp-38のリン酸化増加は,低酸素環境下ではマスクされてしまう結果となった。 このような結果から,AGEsは,口腔上皮細胞からのLCN2発現を増加させ,このLCN2は好中球に作用し,糖尿病関連歯周炎の病態に影響を与えることが示唆された。また,歯周ポケット内の低酸素環境は,AGEs刺激によるMAPKやNF-κB経路の制御に対して複雑な影響を与えることから,今後それぞれの経路を介した歯周炎の病態への影響のさらなる検討が必要となる。
|