歯周病は,歯周病原細菌に対する慢性炎症により歯周組織破壊が起こる疾患である.炎症刺激により,骨芽細胞が発現する破骨細胞分化因子 (RANKL) はその受容体RANKと結合して,破骨細胞の分化と骨吸収活性を促進し歯槽骨吸収を引き起こす.RANK様ペプチドWP9QY (W9) は,RANKLに結合してRANKL-RANKシグナルを阻害する骨吸収抑制作用とともに,骨形成促進作用も有することが報告されている.一方,RANKL-RANKシグナルを遮断するOsteoprotegerin (OPG)遺伝子を欠損したマウス (OPG-/-マウス) は重度の歯槽骨吸収を起こす.本研究は,W9投与によりOPG-/-マウスの歯槽骨吸収に対する修復効果を検討した. 実験群として12週齢のOPG-/-マウスにW9 (10 mg/kg) を1日3回5日間,皮下注射にて投与した.対照群として12週齢のOPG-/-マウスに生理食塩水を1日3回5日間,皮下注射にて投与した.投与開始から6日目に歯槽骨を採取し,以下の解析を行った.W9投与は歯槽骨吸収量を有意に減少させた.歯槽骨の骨形態計測において,W9投与は破骨細胞数を有意に減少させ,骨芽細胞数を有意に増加させた.免疫組織化学的染色において,W9投与はOsterix陽性またはAlkaline phosphatase陽性の骨芽細胞数を増加させた.また,免疫組織化学染色において,W9投与はβ-catenin陽性の骨芽細胞数を増加させたが,一方でWnt/β-cateninシグナル抑制因子であるSclerostin陽性骨細胞数を増加させなかった. 以上の結果,W9はRANKL-RANKシグナル阻害による歯槽骨吸収抑制作用とともに,Wnt/β-cateninシグナル誘導による骨芽細胞分化・骨形成促進作用を有する,新規の歯周病治療薬となり得ることが示された.
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