研究実績の概要 |
本研究は,(1)老化関連疾患である歯周病および動脈硬化症の基盤病態に関与する因子を同定すること,(2)細胞老化の抑制は,歯周病誘導性の血管内皮細胞機能障害を改善し,動脈硬化症の発症および進行を防止できるか検討することを目的としている. 令和元年度まで,歯周病誘導性に動脈硬化症が惹起されるメカニズムについて検討した.若齢者または高齢者由来のヒト大動脈血管内皮細胞(HAECs)に対して血清アミロイドA(SAA, 2μg/ml)を添加し,10日または20日間培養を行った.培養細胞よりcDNAを精製し,老化関連因子(p16,p21,p53)および接着分子(ICAM-1,VCAM-1)の遺伝子発現をreal‐time PCR法にて定量し,コントロール群と比較した.実験の結果, 高齢者由来のHAECsでは,SAA添加培養群において接着分子の遺伝子発現量が優位に増加した.このことから,老化により血管内皮細胞はより炎症を起こしやすくなっていることが示唆され,歯周炎局所で産生されたIL-6によりSAAが増加し,SAA刺激がtoll-like receptor-2を介して血管内皮細胞の機能障害を惹起し,動脈壁へのマクロファージ浸潤を誘発して動脈硬化症を進行させることが示唆された.一方で,老化関連因子については有意な差は認められなかった. 令和2年度より,HAECsを継代培養することにより細胞老化を誘導し,歯周病原菌であるP.g菌由来のLPSを添加して,HAECsに及ぼす影響を検討した.その結果,IL-6の発現量が優位に増加することが明らかとなったが,一方で老化関連因子の発現量に有意な差はなかった. 本研究結果より,歯周病と動脈硬化症の基盤病態においてIL-6が関与することが示唆された.IL-6が細胞に及ぼす影響を検討することは,老化が両疾患を悪化させる機序の解明に必要であると考えられる.
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