研究課題
本研究では、近年、細胞外基質(ECM)生成に重要な役割を担うことで注目されているHIF(Hypoxia Inducible Factor)が、歯周組織におけるⅠ型コラーゲンの生合成に与える影響を解析し、それが歯周病の病態形成に如何なる役割を担うのかを解明することを目的に研究を実施している。平成30年度には、ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)およびヒト歯根膜細胞(HPDL)における低酸素誘導性コラーゲン産生亢進の分子機序について、転写後修飾に着目し、検討した。まず、酸素分圧の調節可能なインキュベータを用いて、両細胞を1%の酸素濃度下にて培養し、HIF-1alphaの発現上昇を確認した。また両細胞における低酸素誘導性コラーゲン産生亢進は、HIF-1alpha阻害剤存在下では抑制されることがWestern blot法、ELISA法にて明らかとなった。さらに、HIF-1alphaを安定化させるdeferoxamine(DFO)存在下でも、コラーゲン産生が亢進したことから、HIF-1alphaは低酸素誘導性コラーゲン産生亢進に関与することが明らかとなった。次に低酸素下での培養が、プロコラーゲン合成水酸化酵素の発現に与える影響について検討したところ、低酸素環境下にてP4HA1、PLOD2の遺伝子発現およびタンパク発現が上昇することが明らかとなり、DFO存在下でも同様の結果が得られた。一方で、HIF-1alpha阻害剤の存在下では認められなかったことから、HGFおよびHPDL両細胞において、低酸素下での培養がHIF-1alpha依存性に水酸化酵素の発現を上昇させることによりコラーゲン産生を促進することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度には、HGFおよびHPDLにおいて、低酸素環境での培養がHIF-1alpha依存性にコラーゲン合成過程の一つである水酸化に必須の水酸化酵素P4HA1およびPLOD2の発現を上昇させることによってコラーゲン産生を促進することが示唆できたことから、両細胞における低酸素誘導性のコラーゲン産生亢進の分子機序の一部分について解明できた。予定された実験はほぼ予定通りに遂行できたことから、研究はおおむね順調に進展していると考える。
今後の研究では、低酸素下にて発現が上昇したHIF-1alphaおよびP4HA1、PLOD2のsiRNAをReverse transfection法によりHGFおよびHPDLに導入し、低酸素環境下で培養した際の、コラーゲンの発現について解析することにより、上記分子が低酸素誘導性コラーゲン産生亢進に果たす役割を明らかにする。またP4HA1あるいはPLOD2発現抑制細胞を低酸素下にてLPSの存在、非存在下で培養した際の各種炎症性サイトカイン発現の解析することにより、低酸素誘導性のコラーゲン産生と炎症反応との関連について検討する予定である。一方マウス歯牙結紮歯周病モデルをC57BL/6マウスに施し、in vivoにて歯周病の病態形成における低酸素部位を同定し、同部位における上記水酸化酵素の発現を検討することにより歯周組織における低酸素誘導性コラーゲン産生の分子機序に関する解析を行うことを予定している。
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