申請者は、これまでに確立したシクロスポリンA(CsA)誘導性歯肉増殖症モデルマウスを改変し、フェニトイン(PHT)、ニフェジピン(NIF)誘導性歯肉増殖症モデルにおけるNR4A1が薬物性歯肉増殖症メカニズムの中心であるかを調べることを目的として、研究を行った。まず、PHT、NIF誘導性歯肉増殖症モデルマウスの確立を目指し、さまざまな濃度、投与方法、投与時間で実験を行ったが、顕著な増殖症の発症には至らなかった。そこで、実験計画を変更しin vitroにおいてCsA、PHT、NIFとNR4A1が歯肉増殖症に及ぼす影響を調べるため、ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)を用いて実験を行った。 CsA、NIF、PHT 誘導性歯肉増殖症の分子メカニズムを解析した結果を以下に示す。 1) TGF-βを1、24時間単独作用するとNR4A1、Ⅰ型コラーゲンのmRNA 発現が有意に上昇したが、CsA、NIF、PHTの1時間前投与で、NR4A1のmRNA発現は有意に抑制した。一方Ⅰ型コラーゲンのmRNA発現は更に有意に上昇した。 2) TGF-βを1時間単独作用し上昇したNR4A1のmRNA発現に対し、NFATc1 siRNAを導入してもその発現に有意差は認めなかった。一方、NFATc3 siRNAを導入すると、NR4A1のmRNA発現は有意に抑制した。 3) TGF-βを30分間単独作用するとNFATc3は核内に多く発現していたが、CsA、NIF、PHTの1時間前投与でNFATc3は細胞質に多く発現していた。 以上の結果から、歯肉線維芽細胞において、CsA、NIF、PHTがNFATc3の核内移行を抑制しNR4A1の発現も抑制することで、結果としてⅠ型コラーゲンの発現が亢進することが示された。将来NR4A1をターゲットとすることで、全ての薬剤で発症する増殖症に対応可能な新規治療法の開発に繋がると考える。
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