【目的】我々はマウスに付与した過高な外傷性咬合力により,比較的短時間で根分岐部中隔に破骨細胞が出現し,歯槽骨破壊が起こることを報告した.さらに,歯根膜側の歯槽骨破壊は,歯槽骨表面のみならず,歯槽骨内の血管周囲にも及ぶことを報告した(Yamashita,九州五大学,2019).一方,血管内皮増殖因子(VEGF)は,以前より血管新生のみならず破骨細胞増殖因子の一つであることが報告されている.そこで,VEGFの刺激が関与しているのではないかと考えた.本研究の目的は,外傷性咬合による歯槽骨吸収におけるVEGFの関与を検討することである. 【材料および方法】破骨細胞形成系として,CB-17マウス(7週齢)の脛骨より骨髄細胞を採取し,M-CSF存在下で破骨細胞分化因子(RANKL)刺激にVEGFを加え,酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色を行い,RANKL刺激のみ群と比較して,破骨細胞形成が促進されるかを確認した.CB-17マウス(8週齢)の上顎左側第一臼歯咬合面に直径0.4 mm,長さ1 mmのステンレスワイヤーをスーパーボンドにて装着し,マウス咬合性外傷モデルを作製した.ワイヤー装着後0,1,2,3,5 日目に屠殺し,下顎第一臼歯を摘出し,組織切片を作製して,HE染色,TRAP染色および抗VEGF抗体による免疫染色を行った. 【結果】破骨細胞形成系では,RANKL刺激群と比較して,VEGF群では有意に破骨細胞形成が促進された。マウス第一臼歯に外傷性咬合を加えると,2日目に根分岐部歯根膜組織が硝子変性し,3日目には,根管中隔に穿下性の骨吸収が起こった.外傷性咬合を加えて1日目には,根分岐部に少数のTRAP陽性細胞とその周囲にVEGF陽性の細胞を認めた. 【考察および結論】マウス咬合性外傷における歯槽骨吸収に関わる破骨細胞形成促進にVEGFが関与していることが示唆された.
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