歯髄炎に起因する口腔顔面領域の異所性異常痛覚は症状が多岐にわたるため、疾患箇所以外に異所性異常疼痛という形で全く異なる部位に慢性の痛みが引き起こされる。これまでの研究で,三叉神経の損傷や口腔顔面領域の炎症に起因する慢性痛は,口腔顔面領域の感覚障害のみならず,咀嚼機能障害あるいは嚥下障害のような様々な機能にも影響を及ぼすことが分かっている。今回の研究により、三叉神経が傷害されると三叉神経節のサテライト細胞が活性化され、損傷部位を超えた広い口腔顔面領域に異常疼痛が発症することが明らかになってきた。 歯髄炎モデルラットを作製、行動解析を行うとともに、三叉神経節細胞の活動性変化および各種物質の合成変化に関して免疫組織学的手法および生化学的手法を用いて検討することを計画した。また、TLR4の発現からTRPA1合成に至る細胞内情報伝達経路に着目し、NF-kBを介する経路にターゲットを絞り、三叉神経節全体に興奮性が拡大するメカニズムを明らかにすることを目的とした。NF-kB発現の増加が痛覚過敏の発症に関与するかどうかを解明するため,舌にFGを投与し,TG細胞におけるNF-kB発現を歯髄炎モデル群およびSham群において免疫組織化学的に検討した。その結果,舌を支配する小型のTG細胞において,Sham群よりも歯髄炎モデル群において多くのNF-kB陽性細胞を認めた。この結果から,歯髄に炎症がおこると,舌を支配するTG細胞においてNFーkBを介する経路が少なからず関与している可能性があることが明らかになった。
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