2022年度は、まず過酸化水素光分解殺菌法(3%過酸化水素に波長400nmのLED照射をすることで得られる水酸化ラジカルを利用した殺菌法)を用いて、細菌芽胞を効率的に殺菌できる条件の検討を行った。細菌芽胞形成菌として、Bacillus cereusを用いた。Schaefferの芽胞形成寒天培地上で5日以上培養し、位相差顕微鏡による観察で90%以上が芽胞になったことを確認後、細菌を回収した。洗浄および80℃加熱処理によって栄養型細菌を除去したものを芽胞懸濁液として殺菌試験に使用した。過酸化水素濃度は3%、LEDの波長は365nm(紫外線A波)と400nm(青色可視光)とし、照射照度は1000mW/cm2にて実験を行った。その結果、生菌数を5‐log以上減少させるために必要な照射時間は、波長365nm条件下では10分間、400nm波長条件下では15分間であった。以上から、波長365nmの光線の使用は、より効率的に細菌芽胞の殺菌が可能であることが明らかになった。 次に、細菌芽胞に対する過酸化水素光分解殺菌法の作用機序を解明するため、殺菌処理後の細菌芽胞の形態を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、殺菌処理後に一部の芽胞において細胞膜の破壊像が確認できた。これは、過酸化水素の光分解により生成する水酸化ラジカルが、細菌芽胞の細胞膜を破壊することよって殺菌作用を及ぼしている可能性を示唆している。 研究期間を通して、ポリフェノール光照射殺菌法による効果を確認するには至らなかったが、その殺菌作用機序の主体である過酸化水素光分解殺菌法は、多剤耐性菌及び細菌芽胞を殺菌可能であることを実証することができた。したがって、当該殺菌方法を歯科補綴領域の器具及び材料等への消毒に利用することで、より安全な高水準消毒を実施の実現が期待できる。今後、より詳細な作用機序の解明や臨床的な研究が必要である。
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