本研究の大きな目的は、CAD/CAM冠の早期脱離に及ぼす影響について、接着性レジンセメントの重合反応動態を多角的に解明することにより、その解決方法を探索することである。 本年度は、レジンセメントの重合反応がラジカル反応であることから、電子スピン共鳴法(ESR)を用いてフリーラジカル生成量の評価を行い、重合反応動態の評価を行なった。また、昨年度までに評価を行なった重合度やビッカース硬さとの相関関係を求めた。併せて、重合阻害因子がレジンセメントの機械的強度に及ぼす影響についても評価した。なお、これまでと同様、硬化促進プライマーおよび光照射の有無で比較検討を行なった。 ESRにおいて、フリーラジカル生成量は重合開始から初期の30分間に急増し、60-120分後にプラトーに到達した後、徐々に減少した。また、重合開始直後においては、光重合によりフリーラジカル生成量が有意に増加したが、重合開始から5-180分後まではプライマーの影響が大きかった。続いて、得られたメタクリレートラジカルのスペクトルシミュレーションおよびフィッティングから、重合反応に関与する成長ラジカルが全体の90%を占め、残り10%は重合連鎖反応に関与しないアリルラジカルであることが示唆された。 また、重合開始から30分後までの短期間においては、重合度とビッカース硬さ、重合度とラジカル生成量、ラジカル生成量とビッカース硬さとの間に、それぞれ高い正の相関関係を認めた。 さらに、重合阻害因子である水や大気に暴露させることで、機械的強度であるビッカース硬さは低下したが、プライマーを併用することで重合阻害を軽減させることは可能であった。 以上より、確実な接着が求められるCAD/CAM冠の接着に際しては、フリーラジカル反応を活性化させ、重合阻害を軽減させる効果のあるプライマー併用が、臨床的に推奨されることが示唆された。
|