我が国の高齢者人口は増加傾向にあり、高齢者は咀嚼回数や咀嚼力の低下などの原因で唾液分泌量が減少する。唾液分泌量の減少は口腔内環境を著しく低下させ、生活の質を低下させる。これまでに、唾液腺分泌機能亢進因子の候補として、bone morphogenetic protein 2(BMP2)を見出し、令和2年度には、in vitroの実験としてBMP2タンパク質を耳下腺初代培養細胞に作用させる実験におけるタンパク質の至適濃度を検討し、100ng/mlという条件が適しているという結果を得た。 令和3年度は、令和2年度で検討したタンパク質濃度のBMP2を用いてin vitroでBMP2の耳下腺腺房細胞初代培養細胞における効果を検討した。まず、野生型C57BL/6マウスの両側耳下腺を深麻酔下にて摘出した。摘出した耳下腺を素早く細かく切り刻み、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼによる細胞単離処理を行い初代培養細胞を96ウェルプレートに播種し10%ラット血清を含む培地で培養した。翌日に、培地を2%ラット血清(コントロール)、10%ラット血清(コントロール)、2%ラット血清にBMP2(100ng/ml)を添加した培地に変更し、更に2日間培養後Cell Counting Kit-8(同仁化学)を用いて細胞増殖を検討した。2種類のコントロールと比較して、BMP2を添加した耳下腺腺房細胞初代培養細胞では、有意に細胞増殖能が増加していた。続いて、増加した培養細胞が上皮系の機能を保持ていることを確認するために、上皮系マーカーであるE-cadherinと間葉系マーカーであるvimentinのタンパク質発現を検討し、E-cadherinのみに発現が認められることを確認した。以上のことから、BMP2は耳下腺腺房細胞初代培養細胞において細胞を増殖させる作用があることが見出された。
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