昨年度はヒト大臼歯象牙質平滑面をカルボキシレート系仮着材で汚染させた試料を、1:エアスケーラー(Sc群),2:回転ブラシ(Br群),3:エアスケーラー+リン酸エッチング+次亜塩素酸ナトリウムゲル処理(Nc群)で仮着材を除去したものとさらに仮着材汚染のないものを4:コントロール(Co 群)としてSEM観察,EDS分析および接触角の測定を行った.さらにこの試料とCAD/CAM冠用レジンブロックを2種の接着性レジンセメントを用いて接着し、微小引張接着試験を行った. 今年度は、1)長期経過試料(6か月後)の接着試験:昨年度に作製し,保存している接着試験用試料を試料作製後6か月経過した時点で接着試験を行った.接着試験後,各群代表的な試験体をSEMにて破断面観察した. 2)接着界面微小構造観察:接着試験用と同様の手法を用いて作製した試料でTEM撮影用切片を作製し、観察を行った. <接着試験>初期接着強さで得られた結果と同様にどちらのセメントにおいてもCo群はSc群,Br群と比較し有意に高い接着強さを示した一方,NC群の接着強さはCo群と有意な差はなかった.また、どちらのセメントでも接着強さは経時的な低下を認めた. <TEM観察> Co群では接着界面は良好に接着しているが,レジンセメントは象牙細管内へ浸潤していないことが示された. また,Sc群およびBr群では界面の剥離が確認された.NC群においては,管周象牙質の脱灰,象牙細管中へのレジンタグの形成が確認された. 本研究結果により,CAD/CAM冠を装着する際には機械的除去に続き化学的処理を行うことで仮着材を十分に除去すること,プライマー併用接着性レジンセメントを使用することが推奨される. 本研究を通じて得られたデータにより本邦で多く行われている保険診療におけるトラブルを減少させることにつながり,メタルフリー補綴の普及にも寄与すると考える.
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