本研究は、「咀嚼機能の成熟」が学習・記憶能に及ぼす影響を分子生物学的に解明することを目指している。本研究では,固形飼料および粉末飼料を用いることで、個々の咀嚼機能の成熟が学習・記憶能に影響を受けることに着目し,食形態の変化が学習・記憶能に与える影響を明らかにすることを目的とした。認知機能を観察するための行動実験を行った結果、軟性飼料を与えて飼育したマウスは途中で固形飼料に変更したとしても認知機能の向上は認めなかった。これは若齢のマウスに軟性飼料を与えた時に神経細胞の成長が阻害されたことにより、途中で固形飼料に変更しても認知機能が一定の水準にまで到達しなかったと考えられる。したがって行動学的に検討すると若齢時の咀嚼時の刺激が脳の認知機能に与える影響が大きく途中で刺激を増やしたとしても大きく向上することが極めて困難であることを示唆している。現在、日本では軟食化に伴い咀嚼回数は激減しており,さらに,不規則かつ栄養バランスの偏った食事摂取により様々な生活習慣病の若年齢化が大きな問題となり食育の重要性が注目されている。歯科界においては2018年に口腔機能発達不全症という症病名が保険収載された。小児の口腔機能低下の危機感の表れだと考えられる。口腔機能発達不全症については、口腔機能低下症にもいえるが臨床研究の貢献が大きいと考えられる。しかしながら、本研究の結果は臨床研究とともにそれを下支えでき、実態にも沿った基礎研究となったと考える。
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