加齢が口腔粘膜の機械痛覚過敏に及ぼす影響を明らかにする為に,延髄(Vc及びC1/C2領域)のミクログリア性疼痛調節機構に着目し,加齢の影響を検討した。老化促進モデルマウス(SAMP8)の口蓋歯槽粘膜に切開を加え,口腔粘膜損傷モデルを作成した。このモデルを正常発育マウス(SAMR1)と比較し各実験に使用した。切開部への機械刺激に対する逃避閾値を計測した結果,加齢により口腔内の機械痛覚過敏は増強かつ持続する事が明らかとなった。SAMP8の機械痛覚過敏が最も増強した3日目とSAMP8のみが機械痛覚過敏を発症している11日目を対象日時として,免疫組織学的解析を行ったところ,Vc及びC1/C2領域のミクログリアの発現増加は加齢により増強する事が明らかとなった。またミクログリアの極性変化を検討した結果,切開後3日目及び11日目では,加齢により炎症性ミクログリア(M1)発現の増加が増強し,抗炎症性ミクログリア(M2)発現は加齢の影響を受けない事が明らかとなった。また,加齢がミクログリアから放出されるサイトカイン発現量に及ぼす影響を検討した結果,切開後3日目及び11日目では,M1放出性のTNFαの発現は加齢により増強する一方で,M2放出性のTNFαの発現は,3日目のみ増加し,11日目は変化を認めなかった。M1放出性のIL10の発現は,3日目及び11日目では有意な変化を認めず,また,M2放出性は3日目は有意な変化を認めなかったが,11日目ではSAMR1と比較してSAMP8は減弱した発現を認めた。またSAMP8の髄腔内にTNFαあるいはIL-10中和抗体を持続投与し,行動薬理学的に解析した結果,加齢による機械痛覚過敏の増強は抑制されるこ事が明らかとなった。よって,加齢は延髄中のミクログリアの極性変化及びサイトカインの発現に影響を及ぼし,口腔内機械痛覚過敏を増強及び持続する事が明らかとなった。
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