ストレスに伴う疼痛(ストレス誘発痛)はQOLの低下だけでなく社会的生産性をも損なうため、健康生活を維持する上でこれを制御することは非常に重要である。これまでに口腔顔面領域のストレス誘発痛は、中枢神経系の可塑的変化に起因することが明らかにされている。また、我々はストレスが顎顔面部への侵害刺激による三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)の興奮性を上昇させるだけでなく、脳幹の吻側延髄腹内側部(RVM)の興奮性を増大させることを、Fosタンパク(神経興奮のマーカー)の発現を指標とした形態学的実験によって明らかにした。内因性疼痛調節機構の主役であるRVMニューロンが発する下行性線維は、Vcなど侵害受容2次ニューロンの興奮性を制御することによって痛みを調節する。すなわち、ストレスに伴うRVMの機能低下、つまりRVMニューロンの興奮性の上昇または低下が痛みの増大と密接にリンクすると考えられる。アロマセラピーは嗅覚機能を用いた健康増進法であり、主な効用としてストレス軽減が知られている。本研究では、ストレス誘発痛におけるRVMの内因性疼痛制御機構の役割を解明し、ストレス誘発性咬筋痛に対するアロマセラピーの効果を吻側延髄腹内側部(RVM)ニューロンの興奮性を指標に明らかにすることを目的とした。令和2年度は、アロマセラピーと同じく補完代替医療として知られる運動療法に着目した。ストレスモデルの作成には社会的敗北ストレス(SDS)を採用し、トレッドミル走による全身運動が、SDS処置により増大した顎顔面部の侵害応答を軽減する効果、およびその脳神経メカニズムについて検討するため、行動学的・組織学的手法を用いて定量・検討した。
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