三叉神経第三枝・下顎神経の分枝である下歯槽神経は、歯科治療において損傷されやすい神経である。損傷の結果、痛みなどの異常感覚を呈し、その治療には難渋することがある。損傷した神経の組織の状態を知ることは、診断や治療に有用となる。MRIはヒトの末梢神経をin vivoで観察可能であり、MRIの拡散強調画像法(Diffusion Weighted imaging: DWI)では組織の状態を知ることができる。本研究では、DWIにおける、新たな下歯槽神経の評価法の開発を目的とした。複数のパラメータ'b'値で撮影したDWIデータセットから、組織の性質を反映した下歯槽神経の分画の抽出を試みた。対象は、正常で障害のない下歯槽神経とした。分画の抽出にはモデルに依存しない多変量解析のクラスタ解析を使用した。得られたクラスタをその成分と空間分布それぞれで評価した。その結果、一つのクラスタは明らかに他と成分の違うクラスタであった。一方成分の類似した残りのクラスタは、下歯槽神経全体の重心を基準とした空間分布において、異なって分布していた。結果、それぞれのクラスタは成分と空間分布で区別できた。 当該年度は、さらに得られたクラスタの信号成分について、既存のモデルへの適合性を調べた。それぞれのクラスタの信号減衰に対し、複数のモデルとの残差二乗和計算し比較した。結果、得られたクラスタの中には、他のクラスタとは異なるモデルへの適合性を示すものがあることを確認できた。得られたクラスタに関して組織的・臨床的な考察を加えるべくペインビジョンPS-2100を用いて健常な神経と障害のある神経を調べることも進めたが、スタディデザインの構築とデータ取得への準備に時間がかかってしまった。よって、正常被験者のDWIの解析結果を用いて内容をまとめ上げ、論文の投稿を行った。現在投稿中である。
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