研究課題/領域番号 |
18K17171
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
奥山 紘平 東京医科歯科大学, 歯学部附属病院, 特任助教 (30781968)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔がん / Cetuximab / Fucci system / 細胞周期 / G1期 / p27 / mTOR / オートファジー |
研究実績の概要 |
舌扁平上皮癌であるSAS細胞においては、セツキシマブによるEGFRの阻害は、下流のAktやMAPキナーゼ経路の活性にはあまり影響を与えないことが明らかになった。セツキシマブによるEGFRの阻害効果は明らかなので、下流のネガティブフィードバックループの切断による下流経路の再活性化が考えられた。しかし、ERK1/2のレベルを補正したリン酸化レベルの評価では、10日目でも抑制されないため、単にEGFRの下流の経路の抑制により細胞増殖が抑制されたわけではないと考えられた。本研究においても、セツキシマブの処理を始めてから5日以上経ってから抑制効果が現れることが分かっており、単なる下流経路の抑制ではないことを裏付けている。一方、ライブイメージング解析により、個々の細胞の運動軌跡の解析を行ったところ、セツキシマブ処理により細胞の運動能が顕著に低減することがわかった。さらに、タイムラプスを用いた解析から、運動能が低下した、特にコロニーの中心部にある細胞は、個々の細胞の占める面積が極小化して、細胞形態が矮小化し、極度の接触状態にあることが推察された。接触阻害状態の細胞において、Aktのリン酸化の低減や、mTORの活性の抑制が報告されていることから、セツキシマブ処理による、細胞運動の持続的抑制が、細胞集隗が大きくなるにつれてストレスレベルが上昇し、その結果、接触阻害ストレスによるAktおよびmTORの活性低下を誘導し、これらの変化が、Skp2のリン酸化の減少と、E3リガーゼの分解活性低下によるp27の発現増加をもたらすことで、細胞増殖が抑制されると考えられた。一方、mTORの活性低下は、オートファジーの誘導ももたらすことも確認した。これらは細胞増殖に対して抑制的に作用し、EGFR経路以外の遅発性のセツキシマブの抗腫瘍効果の1つであると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
舌扁平上皮癌SAS細胞株において、セツキシマブによるEGFR経路の遮断以外での抗腫瘍効果が確認できた。セツキシマブの十分な作用期間の後、E3リガーゼの分解活性低下を認めていることは明らかであるため、理論上はDNA repairの低減を同時に示していることになる。従って、セツキシマブを十分長期間作用させた細胞においては、その後の放射線照射で相乗効果が得られる可能性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後はセツキシマブの放射線増感効果を最大限に引き出す目的で、作用期間と放射線照射のタイミングを検討していく予定である。また、これらの成果が同細胞株のsphereでも認められるか、また、セツキシマブにはADCC活性もあることから、マウス舌癌モデルを用いたin vivoでの検証も必要となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に使用した金額のうち、少額次年度繰り越しとなった。これは次年度の研究費用(試料・資材・器機の購入)、学会発表にかかる参加費・旅費、論文投稿にかかる諸経費(英文校正、投稿料、別刷り等)に充てる予定である。
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