本研究は,三叉神経系におけるATP受容体を介した細胞内・細胞間コミュニケーションの詳細について網羅的に検索することで,炎症性疼痛のメカニズムを解明することである. 本研究は昨年度までに,三叉神経節(TG)細胞におけるP2X7受容体/Panx-1チャネル/P2X4受容体を介したautocrine現象の可能性,TG細胞とその近傍する細胞との細胞間相互作用が疼痛メカニズムに寄与する可能性を示唆した.また、血管内皮細胞におけるCカルシトニン受容体様受容体を介したアデニル酸シクラーゼ(AC)の活性化が細胞内cAMPレベルを増加させ、これらがTGニューロンにおける神経原性炎症に関与する可能性を報告した。 歯における神経原性炎症は、神経終末から血管内皮細胞や歯髄細胞へと神経ペプチドが放出されることに起因する。そこで、ラット脳微小血管内皮細胞(RBMEC)に対して、mNeon green cAMP sensorを加え,細胞内cAMP濃度を蛍光強度として記録した。ACの活性薬であるForskolin(FSK)を単独投与すると、RBMECの細胞内cAMPレベルは一過性に増加した。Phosphodiesterase阻害薬であるIBMXを同時投与するとFSK誘発性細胞内cAMPレベルは有意に増加した。Gsタンパク質共役型受容体アゴニストである神経ペプチドをRBMECに投与すると、細胞内cAMPレベルは増加した。その増加はAC阻害薬であるSQ22536で有意に抑制された。RBMECはGsタンパク質共役型受容体に免疫陽性であった。TG細胞への直接的な機械的刺激によって、TG細胞からGsタンパク質共役型受容体作動性神経ペプチドが放出される可能性が示唆された。 放出されたペプチドはGsシグナル伝達経路を活性化して、軸索反射としての細胞間コミュニケーションを確立する可能性が示唆された。 本研究内容は、現在査読のある英文雑誌へ投稿中である。
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