薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw; MRONJ)は発症すると難治性であり臨床上大きな問題となっている。現在までに詳細な病態生理は解明されていないものの、これまでの基礎的・臨床的研究の結果、骨芽細胞機能抑制とそれに伴うRANKL産生低下、破骨細胞分化抑制による骨吸収抑制、血管新生抑制による顎骨・口腔粘膜上皮への栄養供給の遮断など、正常骨における骨リモデリング阻害や口腔粘膜上皮のターンオーバーが破綻した状態であることが指摘されている。 生体内微量元素の1つである亜鉛は必須微量元素としてヒト体内に存在し、骨芽細胞を活性化し分化を促進することで骨量の増大をもたらす事が報告されている。さらに近年、亜鉛の創傷治癒促進作用に関するin vitro、in vivoにおける研究成果が報告されている。 種々の疾患における根本的治療を考慮した際、病因へのアプローチが不可欠となるが、MRONJにおいては骨芽細胞分化の回復と口腔粘膜上皮におけるターンオー バーの回復が重要であり、亜鉛の骨芽細胞分化促進作用および粘膜上皮の創傷治癒促進作用はこれらの問題点に対応できるものであると考えられる。 そこで本研究ではMRONJの根本的治療を目的として亜鉛イオンを応用することで、新たなMRONJ治療を構築する事を目指す。 本研究では、vitro MRONJ歯肉モデルの作製および解析を行った。in vitro MRONJ歯肉モデルでは、ビスフォスフォネート(BP;ゾレドロン酸)の添加により、濃度依存性に細胞生存率が低下することがMTT assayで確認された。また、BP添加および圧縮負荷添加が歯肉線維芽細胞に与える影響を各種mRNA発現、タンパク発現の測定および、シリウスレッド染色を用いて評価した。その結果、BPおよび圧縮ストレスによりコラーゲン産生能は減弱し、各種mRNAやタンパク発現も制御されることが明らかとなった。
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