はじめにヌードマウス、ヒト扁平上皮癌細胞株を用いた皮下腫瘍モデルを作製し、腫瘍に対する半導体レーザーの効果を検討した。レーザー照射群ではコントロール群よりも腫瘍の増大が有意に抑制されることが明らかになった。レーザー照射により腫瘍細胞のアポトーシスが亢進することも明らかになった。野生型マウス、マウス扁平上皮癌細胞株を用いて皮下腫瘍モデルを作製し、腫瘍に対する半導体レーザーの効果を同様に検討した。照射群ではコントロール群よりも腫瘍の増大が優位に抑制されたが、単回の照射では再増大をきたすことから、腫瘍を完全に消失させるためには複数回の照射が必要であると考えられた。次に、扁平上皮癌細胞株と野生型マウスを用いて、原発巣(皮下腫瘍)と転移巣(肺転移)の両者をあわせ持つ動物モデルの作製を試みたが、腫瘍細胞の肺への生着率が低く、安定したモデルとして使用し難いと判断した。2つの皮下腫瘍の一方を原発巣、他方を転移巣と見立てたモデルを使用した。一方の腫瘍に半導体レーザーを照射すると、他方の腫瘍は生着しない、あるいは縮小する傾向が認められた。半導体レーザーの照射により、直接照射された腫瘍だけでなく、照射されていない部位の腫瘍においても、腫瘍の形成・増大を抑制する効果(アブスコパル効果)をもつ可能性が示唆された。治療メカニズムを腫瘍免疫学的な視点から明らかにするために腫瘍、脾臓、リンパ節より採取したリンパ球をフローサイトメトリーで評価したがCD3陽性活性型Tリンパ球の分画に明らかな差を見出すことはできなかった。半導体レーザーを利用した方法は、これまで遠隔転移を有する癌患者に行われてきた化学療法を中心とした治療とは全く違うアプローチであり、画期的な治療法となる。今後も腫瘍免疫学的な観点から治療効果とそのメカニズムの検証が必要である。
|