唾液分泌障害に対し、唾液腺を修復する再生医療の確立が期待されている。臓器再生を図る上で、シグナル伝達機構の解析は必須であるが、唾液腺では損傷-再生過程の調節機構についての包括的な報告はこれまでにない。本研究は唾液腺が分枝形態形成を行うという視点から唾液腺損傷-再生過程を解析し、臓器再生に応用し治療に生かすための研究基盤を確立することが目的である。本研究はモデル臓器として唾液腺を用いている。唾液腺は、1) 枝分かれする臓器である、2) 細胞の単離が容易である、3) 表面マーカーが多く同定されていることなど、分枝形態形成を解析する最もよい系といえる 。また唾液腺ではかつて、未知の領域が多く臓器再生の実現は困難であったが、近年、細胞系譜や前駆細胞の動向などに注目が集まっており、多くの知見が散見される。特に発生段階だけでなく組織損傷後の細胞動態や、前駆細胞の働きについてもいくつか報告されている。そこで申請者はまずは損傷唾液腺の損傷回復過程と発生唾液腺の発生過程の比較を行うところから開始した。損傷回復過程の唾液腺として導管結紮モデルを作成、発生唾液腺として胎仔唾液腺を用いて比較検討を行った。その結果、唾液腺の発生と再生は同様の事象もあるが、細胞増殖のパターンなどは大きく異なっていることを明らかにした。同内容はJ of Oral Investigation誌に掲載された。同内容は分枝態形成を司る因子を応用し唾液腺だけでなく他臓器の臓器再生に応用することができ、波及効果があると考えている。その他、研究期間中には口腔乾燥症の原因を明らかにするための臨床的な統計解析を行い、学術雑誌に2本掲載され、学会発表を複数行った。基礎研究と臨床研究を行うことで、唾液分泌障害への理解はより深まったと考えている。
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