研究課題/領域番号 |
18K17226
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石田 陽子 広島大学, 病院(歯), 歯科診療医 (00772055)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 歯小嚢由来幹細胞 / 歯乳頭由来幹細胞 / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
幹細胞は,自己増殖能および多分化能を有する細胞と定義され,生体諸組織に分布することが知られている。とくに,間葉系幹細胞の有する骨芽細胞や軟骨細胞への分化能は再生医療の中でも注目されている。骨髄系間葉幹細胞以外にもさまざまな組織から存在が報告されているが、口腔領域では、歯髄由来の間葉系幹細胞の増殖能や多分化能等の特性を示した報告がされている。しかしながら歯乳頭細胞、歯小嚢細胞由来の間葉系幹細胞の生物学的特性、分化能力の違いを比較した報告は国内外でも少なく、不明な点がおおい。さらに、歯乳頭細胞、歯小嚢細胞由来の間葉系幹細胞における炎症系サイトカインの分化能の調節機構については国内外で報告はない。申請者のグループは今まで、口腔粘膜上皮細胞、歯肉線維芽細胞、顎関節骨膜細胞、唾液腺上皮細胞などを口腔組織から樹立し、炎症性サイトカインの刺激による受容体、シグナル伝達、発現誘導される遺伝子の同定を行ってきており、 申請者は予備実験で複数の同一患者の完全埋伏歯から歯小嚢、歯乳頭、歯髄組織を採取し、幹細胞を分離し、幹細胞マーカーが陽性である事を証明している。さらに、同一人物から採取した歯乳頭、歯小嚢由来の間葉系幹細胞の細胞学的性質が異なっていること、また炎症性サイトカインがそれら間葉系幹細胞の骨分化能力を抑制する事を発見した。今回の実験計画では同一患者から歯乳頭細胞、歯小嚢細胞由来の間葉系幹細胞を分離し、生物学的特性や分化能力の比較を行う事、さらに炎症系サイトカインによる分化能の調節機構とそれに関与する新規分化誘導関連遺伝子を明らかにし、間葉系幹細胞の分化機構の誘導を示す新たな分子生物学的マーカーを発見し、再生医療への応用を検討する事である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者の過剰歯から歯小嚢,歯乳頭組織を採取し, Balliniらの方法によって幹細胞の単離を行った。得られた幹細胞の生物学的解析を行った。これらの幹細胞に おける,幹細胞マーカーの解析をフローサイトメトリー法によって行った結果,CD90, CD73 などの幹細胞マーカーが陽性であることが示された。さらにこれら の細胞を分化誘導培地で分化させ,骨分化誘導能,脂肪分化能,軟骨分化能を検討した結果,得られた細胞が骨分化,脂肪分化,軟骨分化能をもつことが示され た。 これらの細胞を用いて,IFN-γ,TNF-α単独,あるいは同時添加を行い,アニザリン染色法にて骨誘導能の比較を行った。歯小嚢,歯乳頭幹細胞ともにIFN-γ単 独添加で骨誘導が抑制されることが示唆された。歯乳頭幹細胞ではTNF-α単独添加において骨誘導が抑制されたが,歯小嚢幹細胞ではTNF-α単独添加における骨 誘導の影響は認められなかった。また歯小嚢幹細胞においてIFN-γ誘導性の骨分化の抑制がTNF-α同時添加によってさらに増強された。 以上の結果を得ており,現在のところ実験計画は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに行った研究より得られた結果をより確固とするため、各種シグナル伝達阻害剤を含む分化培地にIFN-γ、TNF-αを添加し、IFN-γ、TNF-αの影響を阻害するシグナル伝達阻害剤を同定する。さらに、サイトカインによる分化調節機構に関連するタンパクの同定を行うために、サイトカインシグナル伝達阻害に関連するタンパクのリン酸化誘導などを検討し、関連タンパクを同定する。サイトカイン添加による分化に関与する遺伝子を網羅的に解析し同定した遺伝子群のsiRNAをカスタムメイドし、歯小嚢、歯乳頭、骨髄由来幹細胞に細胞導入する。同定した遺伝子をPCRで増幅後、クローニングベクターに挿入後,過剰発現ベクターに組み込む。その後,歯小嚢,歯乳頭由来幹細胞,あるいは申請者らのグループで樹立している不死化歯乳頭細胞AP-1に導入し、分化誘導を行い、親細胞との分化能力の比較を行う。その後、上記遺伝子導入幹細胞における骨形成能力を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク解析、遺伝子の同定に時間がかかっているため次年度使用額が生じた。次年度で以降の助成金を合わせ、物品費として使用することを検討している。
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