睡眠や覚醒など様々な生理機能には約24時間のリズムがあり、生物が普遍的に備える「体内時計」によって制御されている。「体内時計」は律動的に発現する時計遺伝子が、調和のとれた生体機能を生み出す一連のシステムを指している。一方、多くの疾病には発症や悪化をきたしやすい時間帯があることから、医療の分野では時間生物学的な知見を取り入れた時間医学の概念が提唱され、疾患の予防や治療に生かそうとする試みが始まっている。このような背景の中、全身麻酔薬が「体内時計」に与える影響が動物実験により検討され、メカニズムの詳細は不明だが、全身麻酔薬が「体内時計」の中枢である視交叉上核の時計遺伝子発現に影響を及ぼすことが挙げられている。一方、高齢社会の進展とともにエイジング(加齢)に関する研究も盛んに行われ、視交叉上核の働きは加齢とともに減弱するという結果も発表されている。そこで、加齢によって視交叉上核の機能が減弱している状態に、全身麻酔薬が作用することで、体内時計機構に顕著な不調和が発生し術後合併症として現れているのではないか?と考え、麻酔薬と加齢・時計遺伝子の関係を確認することを目的として研究を開始した。 2020年度は、Per2::LUCマウスを用いて、視交叉上核における発光リズムの測定ができるよう、機器や試薬の調整を行った。その結果、ある程度安定して視交叉上核を切り出し、測定を遂行することが可能となった。その得られたリズム解析をしたところ先行研究と矛盾しない結果を確認できた。これにより、今後はマウスに吸入麻酔薬で全身麻酔を行い、年齢による差異がないか検討する方針である。
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