1.ヒト口腔扁平上皮癌(hOSCC)細胞株であるHSC-4細胞培養における低密度条件では、cadherin switchを誘発することが示唆された。加えて、他のhOSCC細胞株であるLMF-4細胞においても、低密度条件では高密度条件よりも低いE-cadherinの発現が認められた。これらの結果は、E-cadherinおよびN-cadherinの発現がhOSCC細胞の細胞密度の変化によって相反的に調節されることを示している。 2.HSC-4細胞でのE-cadherin発現は上昇しN-cadherin発現は減少することがRT-qPCR法により、明らかとなった。また、蛍光免疫染色では低密度条件下でYAP/TAZの核内移行が確認された。このことから、HSC-4細胞株におけるcadherin switchにはHippo経路が関与していることが示唆された。 3.EMT関連転写因子Slugの核移行は、Hippo経路のシグナル伝達ターゲット分子であるYAPにより正に調節され、E-cadherin発現抑制にはSlugが関与することが示された。 4.E-cadherinの中和抗体投与により、HSC-4細胞のYAPの核局在化が促進されると共に、N-cadherinの発現上昇およびE-cadherinの発現抑制が認められた。 以上より、ヒト口腔扁平上皮癌細胞HSC-4細胞において、E-cadherinの細胞間接着の崩壊によるYAP/TAZの活性化はSlugの核内移行を促進することによりcadherin switchを誘導することが示され、ヒト口腔扁平上皮癌細胞の悪性化に関与するEMTの機構の一端を解明することができた。
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