研究実績の概要 |
鼻呼吸障害を患う成長期の児童には、読解力・数学力の低下が、不十分な睡眠と呼吸機能障害を示す児童には学力の低下がそれぞれ認められるといった、呼吸機能障害と記憶・学習機能の関連性についての臨床報告が見受けられる。しかし、高次脳機能の旺盛な発育期である成長期における鼻呼吸障害が、記憶・学習機能を司る海馬の機能変性に与える影響とその分子メカニズムに関する報告は国内外問わず見当たらない。記憶・学習機能を司る海馬の成長発育には、脳由来神経栄養因子であるBrain-derived neurotrophic factor (BDNF)とその受容体であるTyrosine kinase B (TrkB) receptorが重要な役割を果たしている。当分野では鼻呼吸障害が両者の結合(BDNF/TrkB signaling)を低下させ、MAPKcascadeにおけphospho-ERK1/2発現量および海馬神経細胞数の減少を誘発し、記憶・学習機能が低下することを明らかとした。近年、記憶・学習機能低下を主症状とするアルツハイマー病において、BDNFの発現を制御している上流の分子伝達経路であるWnt signaling pathwayと関連があるとの報告がある。そこで、Wnt signaling pathwayの関連分子であるWnt3aおよびそのアンタゴニストであるDKK-1に着目して分子メカニズムを明らかにしたいと考えた。鼻閉モデルを用いて行動実験において記憶・学習機能の評価を行い低下が認められ、western blotting法を用いた 生化学的解析によりWnt 3a,DKK-1の発現変化を明らかにでき、鼻呼吸障害が記憶・学習機能障害に与える分子学的メカニズムの解明に一歩前進した。
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