研究課題/領域番号 |
18K17252
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鋸屋 侑布子 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40803078)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ヘリコバクター・ピロリ菌 / 母子感染 / ラット齲蝕モデル / 胃粘膜傷害 |
研究実績の概要 |
本研究は、「ヘリコバクター・ピロリ菌の母子感染の可能性を検討」するとともに、「動物モデルを用いたピロリ菌感染モデルの構築」を目的として行っている。これまでの研究から、ピロリ菌は小児口腔内では歯髄に達した齲蝕を有する根管内に局在することが示唆されている。そこで本研究では、大阪大学歯学部附属病院小児歯科を受診し、同意を得られた小児患者を対象に根管サンプルを含む口腔サンプルの採取を行った。また、その母親からも同様に口腔サンプルを採取するとともに、胃疾患に関する問診を行った。採取した口腔サンプルから細菌DNAを抽出した後に、これまでに独自に確立した信頼性の高いPCR検出系を用いた分析によりピロリ菌の検出を行ったところ、母子の両方からピロリ菌の検出を確認することができた検体が存在し、母子感染の可能性が示唆された。 さらに、ラットを用いたピロリ菌感染モデルの構築を試み、口腔および胃へのピロリ菌の定着について検討を行った。18日齢のラットに対して齲蝕原性細菌であるストレプトコッカス・ミュータンスを口腔より5日間投与するとともに、齲蝕誘発性飼料を与えて飼育することで人工的に齲蝕を発生させたラットモデルを作製した。このラット齲蝕モデル群に対してピロリ菌を口腔より投与し、1か月飼育した後に口腔および胃へのピロリ菌定着の有無を検討した。また、ミュータンス菌を感染させずにピロリ菌のみを感染させたラット群、およびどちらの細菌も感染させないラット群に対しても同様の検討を行った。その結果、ピロリ菌を感染させた齲蝕発生ラット群においてのみ、口腔サンプルからのピロリ菌の検出に成功した。さらに同群においては、その他の群と比較して有意に高い胃粘膜の傷害を認めた。これらの結果から、齲蝕の有無はピロリ菌の口腔への定着の潜在的な危険因子となるとともに、胃粘膜への傷害に関連することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラットはピロリ菌の胃での持続感染は難しく、感染後も病的変化を認めにくいとされているため、当初ラットにおいてピロリ菌の口腔への定着を確認した後にスナネズミを用いて口腔および胃への感染を検討するとしていた。しかし本研究により、齲蝕発生ラットモデルにおいて、齲蝕を発生させていないラットモデルに対して有意に高い胃粘膜の傷害を確認することができた。現時点ですでに齲蝕の有無が口腔へのピロリ菌の定着および胃粘膜の傷害へ関与する可能性を見出すことができ、想定していた以上の成果を得ることができたと考えている。しかし、本学附属病院小児歯科診療室における小児患者およびその母親からの口腔サンプルの採取は想定よりも遅れをとっている状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究においてこれまで、ラットからのピロリ菌の感染の確認は分子生物学的手法を用いて行っている。今後は、組織学的手法を用いたピロリ菌の口腔および胃への定着の有無を検討したいと考えている。 現在、本学附属病院小児歯科診療室における口腔サンプルの採取が想定よりも遅れをとっている状況にある。その原因として、基本的に口腔サンプルの採取は本研究代表者および研究協力者が担当している患児を中心として対象者に協力を求めているが、昨今歯髄処置の対象となる患児が減少しているため対象者が予想以上に少ないと考えられる。そのため今後は、本学附属病院小児歯科を受診し歯髄処置を行うこととなった全ての患児を対象とし、口腔サンプルの採取を長期的に継続する予定である。
|