最終年度では、確立した口腔-胃連関動物モデルに検討を加えることで、「ピロリ菌は口腔にある一定期間定着することにより胃への感染を成立させるか」の検討を行った。18日齢のラットに対して5日間、齲蝕原性細菌であるミュータンスレンサ球菌を口腔より投与するとともに、齲蝕誘発性飼料を与えて1か月または2か月飼育することで人工的に齲蝕を発生させたラットモデルを作製した。それぞれのラット齲蝕モデル群にピロリ菌を口腔より投与し、1か月飼育した後に口腔および胃へのピロリ菌の定着の有無および胃・十二指腸粘膜の傷害の有無を検討した。また、ミュータンス菌を感染させずピロリ菌のみを感染させたラット群、ミュータンス菌のみを感染させたラット群およびどちらの細菌も感染させないラット群も作製し、同様の検討を行った。その結果、ミュータンス菌およびピロリ菌を共に感染させた齲蝕発生ラット群においてのみ口腔サンプルからピロリ菌が検出されるとともに、胃粘膜にピロリ菌と考えられる桿菌の侵入像が認められた。さらに同群においては、その他の群と比較して有意に高い胃・十二指腸粘膜の損傷を認めた。これらの結果から、齲蝕の有無はピロリ菌の口腔への定着および胃粘膜への侵入の潜在的な危険因子となるとともに、胃・十二指腸粘膜への損傷に関連することが示唆された。 動物モデルを用いた齲蝕の存在とピロリ菌感染の関係についての検討はこれまで行われていない。本研究では、口腔-胃連関動物モデルの確立に成功し、その関連を示唆した意義深い成果が得られたと考えている。
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