これまでに、う蝕病原性細菌のうち菌体表層にコラーゲン結合タンパク(Collagen-binding protein;CBP)を発現しているミュータンスレンサ球菌が感染性心内膜炎の病原性に関与していることを明らかにしてきた。しかし、従来の動物モデルでは菌を血中に人工的に投与し病原性を評価しており、う蝕病変部に存在する菌による感染性心内膜炎の病原性を評価するモデルは存在していなかった。本研究では、CBPを発現しているミュータンスレンサ球菌をラットの口腔内に定着させ重度のう蝕を誘発した状態で心臓弁に傷害を生じさせ、う蝕病変を介した感染性心内膜炎の病原性について検討した。まず、CBPを発現しているミュータンスレンサ球菌であるSA31株を18日齢のラットの口腔内に定着させ、56%スクロースを含有した飼料を与えて飼育し重度のう蝕を誘発させた。その後、90日齢時に全身麻酔下にてラットの右頸動脈よりカテーテルを挿入し、心臓弁に傷害を生じさせ、その1週間後、1か月後および3か月後に屠殺して、う蝕病変の評価および心臓弁における病原性の評価を行った。どの時期で屠殺したラットにおいても口腔内にう蝕を認めたが、飼育期間が長いラットほどう蝕の程度は重度であり、3か 月飼育したラットでは残根状態であった。また、1か月および3か月飼育したラットから摘出した心臓弁においては、口腔内に定着させたSA31株が検出された。これまでに、重度のう蝕と感染性心内膜炎との関連性を示す報告はなく、検討する実験系も存在していなかった。そのため、本研究ではラットう蝕モデルとラット心臓弁傷害心内膜炎モデルを融合させた初めての動物実験系を確立できた。さらに、CBPを発現しているミュータンスレンサ球菌がう蝕病変を介して歯髄腔より血液循環に侵入し、感染性心内膜炎の病原性に影響を及ぼす可能性を示すことができた。
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