研究課題/領域番号 |
18K17277
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
玉原 亨 東北大学, 歯学研究科, 助教 (40756235)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔内細菌 / 動脈瘤 / 歯周病 |
研究実績の概要 |
口腔内細菌が大動脈瘤の発生および病態の進行に深く関わっていることが強く示唆されている。口腔内細菌による直接的な大動脈瘤壁への感染とそれに引き続く炎症がその本質であると考えられているが、これまでの報告は大動脈瘤壁に歯周病菌が存在していることをPCR 法や免疫染色法にて確認しているのみであった。この方法では血行性に動脈瘤に流れ着いた歯周病菌の残骸を検出している可能性が否定できない。我々は心臓血管外科との共同研究をおこない、大動脈瘤手術時に摘出された大動脈瘤壁を直接培養することで口腔内細菌が「生きた」状態で存在しているか検証した。その結果、大動脈瘤およびその他大動脈疾患から歯周病菌は検出されず、体表や口腔の常在菌として知られているstaphylococcus 属やPropionibacterium acnes の検出率が高かった。 そこで、大動脈瘤壁を直接培養することで得られた細菌が大動脈瘤壁サンプルを用いたPCR法にて検出されるか検証した。その結果、PCR法では検出率が悪く、検出したサンプルもDNAバンドが薄かった。このことは培養法がPCR法と比べて大動脈瘤中の細菌を検出することに適していることを示している。 また、これらの細菌が口腔内に存在していたかを示すために、手術時のサンプル採取に前もって採取しておいたデンタルプラークを用いて、PCR法にて検証した。その結果、培養法にて検出された細菌は口腔内においても検出されることがわかった。さらに、動脈瘤およびデンタルプラークから検出された細菌の16S rDNA領域の配列を比較した。その結果、患者間では配列が異なる細菌が検出される割合が高く、またサンプル間では一致する割合が高かかった。このことから、動脈瘤サンプルで培養された細菌は、口腔内由来である可能性が示唆されたが、これら細菌は常在菌であることも考慮し断定には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は培養法を用いて細菌を同定する研究であるため、手技操作における細菌のコンタミネーションについての議論が常に必要になる。加えて、歯周病菌だけではなく口腔内に存在する常在菌をターゲットにしているため、徹底した細菌コンタミネーションの議論が必要となる。これまでのところ培養サンプルを次亜塩素酸洗浄することで、培養前の常在菌コンタミネーション防止策をおこなってきた。今回、動脈瘤壁からの検出菌とデンタルプラークのマッチングを実施することで、生きた口腔内由来の細菌が動脈瘤壁に存在する可能性についての検証が概ね終了した。
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今後の研究の推進方策 |
動脈瘤壁からの検出菌とデンタルプラークのマッチングをDNAシークエンスを用いて実施することで、生きた口腔内細菌が動脈瘤壁に存在する可能性についての検証が概ね終了した。 今後は、動脈瘤形成モデルマウスに対して生きた歯周病菌などの口腔内細菌を静脈内に投与し、動脈瘤形成が進行すること、および投与した口腔内細菌が生きた状態で動脈瘤内に存在することを明らかにする。さらに、生きた口腔内細菌に感染した大動脈瘤壁に発現の亢進している遺伝子についてマイクロアレイを用いて探索し、口腔内細菌が動脈瘤形成に直接的に、かつ深く関係していることを明らかにする。最終的には口腔内細菌による動脈瘤壁血管内皮細胞内シグナル伝達経路への影響を解明する。 将来的には、口腔ケアや抗生剤投与による細菌学的な動脈瘤発症・拡大予防だけではなく、血管内皮細胞を標的としたシグナル伝達阻害剤などにも応用が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、平成30年度にマウスを用いた実験および物品使用を実施する予定であったが、実際には大動脈瘤サンプルおよび口腔内サンプル間の検出細菌のマッチングするための検証や実験に予想よりも時間がかかってしまった。そのため、次年度使用額がわずかながら生じてしまった。 次年度計画については、当初予定どおり実施する予定である。
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