研究課題/領域番号 |
18K17279
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
大森 裕子 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (00806151)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルジネート印象材 / 超音波 / 歯科治療 / オーラルフレイル |
研究実績の概要 |
歯科治療のために歯形を取る作業を印象採得という。その材料は、安価で操作性の観点からアルジネート印象材が古くから使用されている。しかしながら、硬化時間がコントロールできないことが大きな問題である。これにより患者は口腔内で印象トレーの静置が必要であり、液だれにより喉に詰まらせる危険があること、術者のテクニックによるところも多く、患者と術者双方のストレスが大きい。 これらの課題を解決するために、われわれは超音波を利用して硬化時間を自由にコントロールできる仕組みを考えた。超音波照射によりカルシウムイオンの拡散を促進することで印象材のゲル化の制御を試みた。 本研究の目的は、アルギン酸/珪藻土コンポジットゲルの超音波照射によるイオン放出挙動、成形性を調査し、「印象採得」をより簡易なものにし患者と術者の負担が少ない治療法を開発することである。 珪藻土を塩化カルシウム水溶液に浸漬し、ろ過、乾燥により塩化カルシウムを担持させた珪藻土を得た。純水中に放出されたイオンの濃度を電導度から求めた。電導度はLCRメーターを用いて、200rpmで撹拌しながら測定した。測定開始後60秒で塩化カルシウムを担持させた珪藻土を入れた。超音波ありでは、測定開始から超音波をかけ続けた。歯科用印象トレーを用いてゲル化実験をおこなった。1wt%アルギン酸ナトリウム、0.2wt%リン酸二水素ナトリウムの混合水溶液に珪藻土を分散させ、0.2wt%硫酸カルシウム水溶液を混合攪拌した。得られたゲルの成形加工性を評価し、表面を電子顕微鏡観察した。 電導度の経時変化では珪藻土を入れると電導度は急激に高くなり、超音波なしでは30秒後に一定になった。超音波ありでは、13秒後に一定になった。イオン放出速度は超音波照射により、放出速度は3倍高くなった。 超音波応答性の新しい印象材の開発に成功した。超音波照射すると、イオン放出速度が3倍向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を遂行するにあたり、①印象材に対する超音波照射の効果、②超音波照射によるイオン流出速度の分析、③イオン流出速度の制御法の検討、④多孔質存在下でのゲル化時間と力学的物性の検討、⑤ゲル化前の液だれに対する対応法、⑥印象用超音波トレーの試作と印象採得システムの開発の6つのステップを計画した。①および②については、超音波照射によるイオン流出速度の促進が認められ、研究期間の早い段階で結果が得られた。③に関しては臨床を想定した条件下での超音波照射におけるイオン流出速度の分析は進んでいるものの、コントロールするまでには至らず、④のゲル化時間に関しても同様である。この③および④のステップが当初の予定よりも時間を要しており、進捗状況として遅れている理由である。当初は実験手技によるエラーもあったが、実験を重ねるにつれてこの問題は解決された。また、力学的物性については現行品と比較すると表面正常や寸法精度の点において劣るが、研究開始当初からは徐々に改善されている。引き続き使用材料や条件を変えて実験を継続したい。
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今後の研究の推進方策 |
イオン流出速度の制御、多孔質存在下でのゲル化時間と力学的物性の向上に関して、引き続き実験を行っていく。使用材料やその配合、実験手技をいま一度見直すとともに改良し遂行する。それと同時に、印象材に超音波を効率よく伝える、超音波発生素子と印象用トレーの印象採得システムの開発を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的な新型コロナウイルス感染拡大により、予定していた国内外学会への参加および発表ができなかった。 想定していた旅費の使用がなく、次年度使用額が生じた。 感染拡大の収束の兆しはなく今年度も旅費での使用は困難であると予測されるため、研究に必要な物品費として使用したい。
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