歯科において治療に必要な歯形を取る作業を「印象採得」という。これは、口腔内に合わせた既製金属トレーにアルジネート印象材を盛り付け、口腔内に一定時間静置した状態で硬化を待つが、硬化時間をコントロールできないこと、それにより液だれで印象材料の誤飲・誤嚥のリスクがあることが大きな問題である。安価で操作性が比較的良いという点からアルジネート印象材が広く普及しているが、術者のテクニックによるところが大きく、患者と術者ともにストレスが大きい。 そこで本研究では、アルギン酸/珪藻土コンポジットゲルの超音波照射によるイオン放出挙動および成形性を調査し、イオン放出を制御することで印象採得時の硬化時間をコントロールし、患者と術者双方にとって負担が少ない検査・治療法を開発することとした。 印象材の器材となる珪藻土を塩化カルシウムに浸漬し、濾過・乾燥することで塩化カルシウムを担持させた珪藻土を生成することができる。この生成した珪藻土を純水と混和し、超音波照射あり/なしの条件下で伝導度を測定し、水中に放出されたイオン濃度をそれぞれ求めた。これによって、超音波照射条件下においてイオン放出速度は3倍高くなることがわかった。これは、2021年度の国内学会において成果を発表している。また、得られたゲルの成形加工性、電子顕微鏡下での表面性状・寸法精度といった力学的物性向上のため、使用する珪藻土の種類や添加する材料の組み合わせを変更しながら試行した。この成果については、2022年度の国際学会において2演題発表した。 現流通材料と比較すると、生成材料の力学的特性には改良の余地があり、超音波照射により印象材の硬化は短縮されるものの硬化時間を自在にコントロールするまでには至らず、超音波発生素子を包含した印象トレーシステムを含めて改良の余地がある。今後も材料のペアリングやデバイス改良につき検討していく必要がある。
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