研究課題/領域番号 |
18K17281
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂中 哲人 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (90815557)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 歯周病 / 微生物叢 / 栄養共生 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
歯周病は現代社会に広く蔓延するバイオフィルム感染症であり、進行すると口腔の健康状態を著しく損なうだけでなく、全身の健康にも影響を及ぼし、医療経済に打撃を与える。近年の微生物叢研究の進展に伴い、バイオフィルム内の特定の細菌ではなく、バイオフィルム全体の機能の変化に着目した新たな病因論が生まれつつある。特に、バイオフィルム内の代謝活動が病原性を表す一つの尺度として注目されている。これまでに私は基礎・臨床研究の両面から、歯周病に伴う細菌叢の代謝変動に関する研究を行ってきた。その結果、細菌集団内でのアミノ酸代謝変動が病態形成に関与する可能性を見出した。現在、10種のモデル細菌のアミノ酸産生能・要求性、さらには複数菌種によるアミノ酸栄養共生機構をin vitro/in silicoの両面から解析するとともに、ヒト歯垢サンプル中の細菌種とメタボロームの相関を解析することで、基礎実験の妥当性の検証を進めている。 まず当研究室が所有するUPLCおよびGC-MSを用いて、微生物の菌体内・外のアミノ酸を定量するための培養系の確立と技術基盤の構築に努め、現在までに単一・混合培養系における菌体内外のアミノ酸プロファイルの安定的な測定に成功している。その結果、複数の口腔細菌間で予想以上に様々なアミノ酸を依存し合っている実態が示唆された。またGC/MS解析により、いくつかの細菌の組み合わせでアミノ酸発酵の亢進を認め、栄養共生が集団内のエネルギー戦略に関わることが示唆された。また個々の菌種の保有する生合成経路を加味した数理モデル構築も進め、歯周病細菌集団における栄養戦略の解明に取り組んでいる。一方、臨床研究に関しては歯垢のサンプリングが終了した段階で、今後ネットワーク解析等の手法を用いた解析を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎実験については、培養系および測定系の最適化が終了し、これにより安定的な微生物のアミノ酸代謝産物プロファイルの取得に成功している。また菌叢の複雑化に伴い、菌対外のポリアミンが増加し、それによりkeystone病原体であるPorphyromonas gingivalisのバイオフィルム形成と解離を促進する可能性を示す知見を得ている。現在、この結果の一部を論文にまとめている。臨床研究についても、検体採取が完了した段階であり、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、in vitro/in silicoの両面から口腔細菌のアミノ酸栄養共生機構を観察・モデル化するとともに、ヒト歯垢サンプル中の細菌種とメタボロームの相関を解析することで、その妥当性を検証する。また検体採取と同時に実施した歯周病検査の結果から、歯周病由来慢性炎症を定量的に表現し得るPeriodontal Inflamed Surface Area(PISA)を算出し、歯周病重症化に伴うアミノ酸代謝産物と菌種の変動をネットワーク解析等の手法を用いて分析する予定である。 未来の歯科医療には、天然の歯・口腔の保全に努める健康管理型医療の実現が期待されている。そのためには、疾患と健康の境界を明確にし、患者がどの程度健康なのかを分子レベルで理解する個別化医療・精密医療の実現が求められる。本研究は、上記視点からも未来の健康管理型社会の実現に向け、有用な知見を与えることが予想される。
|