歯周病はバイオフィルムの量と質の変化に起因する慢性炎症性疾患である。近年、バイオフィルムの質の変化、特に、バイオフィルム内の菌種を超えた代謝活動が病原性を表す一つの尺度として注目されている。バイオフィルムにおける代謝活動の本体は、様々な微生物種間で行われる代謝物の受け渡し、すなわち栄養共生であり、これらのネットワークの総和として集団の代謝が形作られる。これまでの我々の基礎・臨床研究の蓄積から、微生物集団内でのアミノ酸代謝変動が病態形成に関与する可能性を見出した。本研究では10種のモデル細菌のアミノ酸産生能や要求性、さらには複数菌種によるアミノ酸栄養共生機構をin vitroとin silicoの両面から解析するとともに、ヒト歯垢サンプル中のメタゲノムとメタボロームの相関を解析することで仮説の検証に挑んだ。まずin vitro/in silicoにおいて微生物の菌体内・外のアミノ酸・ポリアミンプロファイルを解析したところ、Fusobacterium nucleatumの高いポリアミン産生能を見出すとともに、口腔レンサ球菌の有するアルギニン分解経路と協働することで、ポリアミン産生能が飛躍的に高まることが示された。さらにポリアミンはPorphyromonas gingivalisの表現型を著しく変化させることから、一連の協調的な代謝が歯周病の病態形成にも関与することが示唆された。一方臨床研究においては、歯周病重篤度と相関する代謝物としてポリアミンの他、いくつかの芳香族アミノ酸分解産物を見出した。さらにそれらがP. gingivalisやPrevotella属細菌により産生されていることを示唆する結果が得られており、現在解析を進めている。これらの新知見は、細菌集団におけるアミノ酸代謝変動が病態形成の基礎をなし、有用な疾患指標となり得ることを示唆している。
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