がん臨床試験では、治療の有効性を評価するために、奏効率や生存時間の他に、患者が報告するQuality of Life (QoL)が測定されることが多い。QoLの比較結果は、臨床研究の主要な結論、ひいては実臨床における意思決定に影響することが多く、患者自身が治療を選択する際にも重要な情報となりうることから、がん臨床試験においてQoL測定は重要である。
がん臨床試験の特徴として、割付治療の開始後、有害事象や腫瘍の増悪に応じて後治療が行われることが挙げられる。収集されたQoLデータを解析する際、統計学的方法論上の課題が二点存在する。一点目は、比較を行う治療レジメンを明確に設定することである。すなわち、割付治療のみならず、後治療を含めた経時治療として効果を推定する必要があるかもしれない。二点目は、QoLの欠測である。患者の都合等による欠測とは異なり、患者が死亡した後の欠測値は避けることができない。死亡による欠測が存在する状況で、生存者に限定して解析を行うと、QoLへの治療の影響について誤った推測を導く危険性がある。死亡による欠測へのアプローチとして、主要層別法に基づいた治療効果の推定が広まっている。しかし、経時治療に対する主要層別法についての研究はわずかである。また、主要層別法には複数の限界があることが知られている。
本年度は、昨年度に引き続き、主要層別法と関連した、別の手法の適用についての調査を行った。実データでは複雑な変数間の関係が想像されるが、より単純な状況を仮定して、それぞれの推定方法を定性的に比較した。また、シミュレーション実験により、実データから示唆される現実的な回帰パラメータ値の範囲において、各推定方法から得られる効果の定量的な比較を行いはじめた。今後も引き続き手法間の比較を行う。
|