本研究ではリハビリテーションにおけるエビデンスと診療の乖離(evidence practice gap)の実態とその関連要因を明らかにすることを目的に、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いた分析を行った。2年間の研究計画にもとづき、初年度(2018)年はNDBデータの提供依頼申出を厚生労働省に対して行うとともに、データ分析アルゴリズムの開発を実施した。提供依頼申出については有識者会議の審査による承諾を受けた。また最終年度(2019)はNDBデータの分析を行い、最終成果物の持ち出しに関する承諾を得た。 急性冠動脈症候群患者を対象とした分析では、心臓リハビリテーション、服薬指導、および栄養指導を実施した患者の割合や各患者における実施期間を算出した。また患者特性として年齢、性別、術式、合併症等とともに、治療を受けた施設の特性として規模や地域等についても調べた。その結果、本邦全体における心臓リハビリテーションの実施割合は約3割で、術式や地域によって実施割合に違いがあることが明らかとなった。 人工股関節置換術後患者を対象とした分析では、リハビリテーションの実施割合や各患者における実施期間を算出した。また患者特性および施設特性ついても調べた。その結果、本邦全体における人工股関節置換術後患者に対するリハビリテーションの実施割合は9割を超え、個人や施設の特性による違いは認められなかった。 心臓リハビリテーションはシステマティックレビューによって介入効果が良好であることが確認され、診療ガイドラインで推奨されている診療であるにも関わらず、対象となる患者に対して十分に実施されていないことが明らかとなった。一方で人工股関節置換術後患者に対するリハビリテーションについては高い実施割合が示され、診療領域によってリハビリテーションの提供体制に違いがあることが示唆された。
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