研究課題/領域番号 |
18K17321
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
恒松 美輪子 広島大学, 医系科学研究科(保), 講師 (80704874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん検診 / 利益 / 不利益 / 数理モデル / 意思決定 / リスクコミュニケーション / ナッジ理論 |
研究実績の概要 |
本研究は、わが国のがん罹患率の状況をきちんと反映した形での根拠のあるがん検診システムを提案するため、がん検診の有効性を判断するための枠組みをもった数理モデルを作成し、利益と不利益の観点から、がん検診の効果を分析・評価するものである。 本年度は、次の2点について重点的に取り組んだ。 (1)がん検診の有効性を評価するモデルの作成と予備的分析:利益と不利益の観点から検診の効果を評価する検診モデルを作成した。検診の実施状況別の効果を適切に判断するため、女性がんを中心に罹患率等の既存データを用いて、シミュレーションの試行を行い、検診モデルの改善を図った。 (2)がん検診に対する認識が受診行動に及ぼす影響の分析:がん検診に対する認識として、早期発見・早期治療による余命の延長効果はかなり行き渡っていると考えられる。一方、不利益の評価には、個人の価値観の影響が大きいと考えられ、利益とのバランスを判断する上では個人ごとの特性の違いの問題を避けて通ることはできない。本年度は、地域住民3,000人を対象とした意識調査のデータをもとに、不利益に対する個人の考え方や判断規準の分布を調査し、数理モデルから計算される利益との評価をどのように行えばよいかを検討した。女性がん検診の受診行動では、がんに対する認識(深刻さ・罹患性)とともにがん検診に対する認識(非重視・有効性・負担)が影響していた。特に、過剰診断に対する重大性の認識も影響しており、検診の不利益の情報提供により、受診率が下がることも考えられた。また、検診の利益や不利益を具体的に考えたことがない人たちに情報提供をすると、利益に関しては受診率を上げ、不利益に関しては受診率を下げる傾向が示され、情報提供の方法については検討が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)がん検診の有効性を評価するモデルの作成と予備的分析:当初の計画にそって実施でき、一定の成果を得ることができた。 (2)がん検診の利益と不利益の評価方法と意識調査:前年度に実施した文献調査をもとに調査票を作成し、調査実施で必要となる手続きを進めた。主な質問項目は、がんや検診に対する認識・受診環境への選好としていたが、近年、各自治体において自発的に望ましい行動に導くナッジ理論を活用した受診勧奨が積極的に進められていることから、この理論を用いた受診勧奨の影響を評価するための質問項目を追加した。当初の計画では、協力自治体でがん検診の意識調査を実施する予定であったが、他の関係部署の合意がとれず、自治体での調査が困難となった。本研究遂行上、がん検診の不利益に関する調査項目を含めることは不可欠であるため、他の方法で研究協力機関を確保し、次年度にインターネットによる意識調査を実施することにした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、次の2点を中心に研究を進め、その成果を発表する予定である。 (1)がん検診に関する意識調査と受診行動に影響する要因分析:がん検診の利益・不利益に対する考え方が、検診の受診行動の決定にどのように影響しているかを明らかにするため、地域住民3,000人(女性・20~60代)を対象に意識調査を実施する。調査実施が遅れたことにより、分析期間が短くなるが、集中的・効率的に作業を行うことにより、当初の計画に沿って研究結果を取りまとめ、成果を発表したいと考えている。 (2)わが国のがん罹患状況を反映させた形での根拠のあるがん検診システムを検討:がん検診の不利益に対する個人の考え方を示す調査データを分析し、検診の不利益の心理的影響がどの程度の生存期間と等価と考えるかを把握する。さらに、最適ながん検診システムを検討するため、作成した検診モデルの受診条件(検診の開始年齢や終了年齢、検診間隔など)を変化させ、各条件下での検診の利益(平均余命の延長)と不利益(過剰診断・治療等による寿命の損失)の影響を余命に換算し、検診の効果を評価する。わが国では、住民、保健・医療従事者のいずれにおいても、がん検診の利益・不利益が十分理解されているとは言い難いと指摘されている。住民ががん検診の受診を検討する際、がん検診の利益・不利益や、これらのバランスを考慮して受診を意思決定するために必要な情報提供のあり方を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
地域住民を対象とする意識調査を予定していたが、調査時期を遅らせざるを得なくなった。2019年度からの繰越分は意識調査の費用に充て、翌年度分を成果発表ならびに解析等の謝金に充てることとした。
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