本研究の課題は,医療資源の再編統合の必要性が迫っている社会的背景を踏まえて,地域の人口および人口構成が急速に変化するなか,保健医療サービスへの地理的アクセシビリティの公平性をいかにして確保するのかということである。この課題に対して,①動態的な需要の測定,②地理的アクセシビリティの測定,③医療資源の適正配置の検討の3つのアプローチで進めるのが当初の計画であった。 和歌山県南部地域の小児救急医療施設の適地選定を事例として,年齢階級別の人口動態を把握し,これを医療需要と想定して立地-配分モデルに基づくシミュレーションを実施した。国勢調査の利用に関しては,行政区単位の集計を用いた場合,山間部を多く含む地域では空間的範囲(面積)が大きく異なり,そのことが地理的アクセシビリティの解析結果に少なからず影響をおよぼし,解釈に困難をともなった。この問題をクリアするため,メッシュ単位の集計を用いて同様の解析を実施した。 pメディアンモデルによる適地は,人口分布の違いを反映した結果が得られた。需要人口の多い地域に適地が選定され,地域全体で住民の移動コストを平均的に低減することができる(地域全体としての効率化を達成できる)。しかし,所要時間別の需要人口が二峰性の分布を示したことから,人口分布の地理的不均一性によって,地域全体の効率性を重視すると住民のアクセシビリティに地域格差が生じることが懸念された。一方で,最大被覆モデルによるシミュレーション結果からは,住民の移動時間の総和は大きくなるが,医療サービスへのアクセシビリティの地理的公平性を担保する適地候補が導出された。研究対象地域においては,現状の救急医療施設(拠点病院・準拠点病院)の配置を踏まえると,効率化の観点においてこれ以上の集約再編を行うと住民の地理的アクセシビリティにおいて,公平性が損なわれる恐れがあることが示唆された。
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