研究実績の概要 |
【研究の背景と目的】非心臓悪性腫瘍手術における心血管系有害転帰の発生率はベースラインリスクに関連している。周術期の心血管合併症は入院を延長し、医療費の増大と周術期死亡の主な原因となり得る。周術期の心筋梗塞と死亡発生率は減少傾向にあると考えられているものの、がんに対する手術患者数は人口の高齢化に伴い大幅に増加することが推定されている。心血管リスク因子の負担が集団として増加することは、過去数十年に渡る周術期転帰の改善傾向を弱める可能性がある。本研究は、日本の周術期心血管イベントの全国的な傾向を分析することを目的とした。 【方法と対象集団】匿名レセプト情報(NDB)を使用し、悪性腫瘍手術が実施された患者を対象とし、抗がん剤治療、透析、冠動脈手術が実施した患者を除外した。心血管イベントは、手術月翌月までに実施されたあらゆる冠動脈再血行再建術とし、各領域の手術サブタイプと心血管イベントの関係を、40歳以上の成人で分析した。 【結果】2012年4月から2017年3月の間に対象手術を実施された患者数は全年齢で31万381人から38万9524人へ約8万人増加した(P for trend 0.005)。40歳以上成人の全冠動脈血行再建術は0.03%に留まり、10万人対発生数に経年変化は認められなかった(P for trend <0.90, aOR, 1.00; 95% CI, 0.69-1.31)。全冠動脈血行再建術の性年齢・併存疾病薬物治療・手術種別調整オッズ比の経年変化は横ばいで、多変量調整後、手術種別と心血管事象に関連は認めなかった。周術期の静注心不全薬投与患者数は減少していた。 【結果と考察】周術期の虚血イベントは減少しており、有意な経年変化は認められなかった。現在の術前心臓リスク評価と周術期管理が一定の成果を果たしていると考えられた。
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