研究課題/領域番号 |
18K17340
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
入澤 仁美 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (30788477)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖補助医療 / 不妊治療 / DC / 妊孕性温存 / 出自を知る権利 / 告知 |
研究実績の概要 |
データベースを利用して集めた判例資料を整理し、2019年5月に開催された第45回日本保健医療社会学会大会において企画RTD『現代日本における生殖補助医療と家族形成』を催した。医療社会学、精神障害学、ジェンダー論の研究者が話題提供者となり、子の福祉の在り方や生殖補助医療に関する法整備の必要性について議論を交わした。 8月には第6回釧路生命倫理フォーラムにおいて、3つの科研課題合同でのRTD『リプロダクションとパートナーシップの可能性』を企画し、男女の不妊カップルに子を持たせるという従来の目的を超え、生殖補助医療がLGBTの家族形成や性交障害のカップルに「経膣性交を必要としない妊娠手段」として利用される側面にも着目し、生殖補助医療の社会的意義の変遷、同性パートナーシップや配偶子提供型生殖補助医療がもたらす法的問題、生殖カウンセリングがなされる際の医療者側のパターナリズムやジレンマについて学際的な議論を行った。 10月にインタビュー調査に関する倫理審査承認がおりたため、妊娠・出産に関わる医療関係者、不妊治療経験者、妊孕性温存経験者、配偶子ドナー候補者、DC児、法律実務家、研究者に対して個別インタビューを開始した。12月には第31回日本生命倫理学会年次大会のワークショップ『多様な家族形成を受け入れる社会を実現させる上での倫理的課題の検討』にて、「配偶子提供型生殖補助医療(DC)の 倫理的・法的問題 -AID当事者の声を通しての検討―」と題した話題提供を担当し、近年のAID(非配偶者間人工授精)の動向やAIDによって生まれた当事者の声を紹介するとともに、AIDがもたらす法的・倫理的問題について考察した。 新型コロナウイルスの影響で2020年2月以降は対面インタビューを停止しているが、郵送で同意書を取得したのちに、メール、電話、Skypeを利用して、個別インタビューの継続を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本国内のAIDの半数以上を担当していた慶應義塾大学病院が新規患者の受け入れを停止してから、AIDを考える親や性同一性障害の診断を受けて戸籍上の性別を変更した者は海外でのエージェントや精子バンクの利用を考える必要性に迫られ、日本の配偶子提供型生殖補助医療は大きな転換期にあると考えられる。また「出自を知る権利」については法案提出の動きが残っているため、どのような法整備が医療者および当事者から求められているかを早期に分析する必要があると判断し、予定していたアンケート調査を、より深く話を聞くことのできる対面インタビュー調査に変更した。そのため、インタビュー対象者を当初の予定よりも細かく分類し、立場の違いがどのような意見の違いとなって現れるのか期待している。 個別インタビューは順調に進んでいたものの、新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年2月以降の研究会、患者会および学会の中止が相次ぎ、インタビュー対象者のリクルート機会が減っている。また本年度に予定されていた対面インタビューの一部も、人と人との接触を減らす、および県外の移動を自粛すべき観点から無期延期となっている。 また本研究の応募段階では韓国でのフィールド調査を予定していたが、研究協力者の移動により困難となり、本年度は台湾の研究協力者を見つけた上でフィールド調査の準備を進めていた。台湾の研究協力者とは2020年の3月~4月に現地で面会予定であったが、これも新型コロナウイルスによる渡航規制により延期となり、現地訪問の目途が立っていない。 年度末には市民セミナーを開催する予定であったが、多人数での密室空間での会合は避けるべきであると判断されたことから、開催は中止した。
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今後の研究の推進方策 |
インタビュー調査では選択式の項目も設置しているため、質的な分析だけでなく、量的な分析も行う予定である。インタビューがメールによる書面回答の形式の場合には、回答結果を確認した後に掘り下げた再質問等やりとりすることにより、対面の場合と同程度の情報を収集するように心がけている。対面でのインタビューを希望している人については、新型コロナウイルスによる外出自粛要請および人との接触制限が解除された段階でインタビューを再開する。 海外の調査については、台湾での病院と大学を拠点としたフィールド調査を行いたいと考えているが、不可能だった場合には、韓国および台湾の研究協力者に対してのインタビュー調査への変更を検討している。 DCに関する自助グループや研究会の運営者とは、密に連絡を取るようにしながら情報を得ており、精子バンクの利用者の動向についても、クリオス・ジャパンの日本担当者を通じて情報を収集している。各団体からセミナー講師としての話題提供の依頼を受けているため、セミナーや患者会を通じてのインタビュー対象者のリクルートも継続する予定である。 今後の学会発表としては、2020年5月開催が9月に延期になった第46回日本保健医療社会学会大会において、企画演題「現代社会における生殖の意思決定の多様な在り方―生殖補助医療を利用した家族の実現を通じて―」(RTD)が採択されている。そのほかにも、同大会での個人演題発表(「配偶子提供医療(DC)における告知の在り方の検討―インタビュー調査を通じて―」)、第7回釧路生命倫理フォーラム(8月予定)でのRTDの開催、2021年6月に延期が決定した第35回日本保健医療行動科学会学術大会での個人演題発表を予定している。2020年度末には、研究協力者をパネリストとしたシンポジウムの開催も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたアンケート調査を中止し、DCと「出自を知る権利」をめぐる諸問題に対する当事者の生の声を集めるインタビュー調査に変更した。そのため、インタビュー調査の準備や倫理審査の申請内容の変更が必要となり、倫理審査申請が約半年遅れた。 2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響で自助グループの会合の中止が相次ぎ、対面インタビューのために遠方に足を運ぶことができなくなった。一部のインタビュー対象者はSkypeやメールでのインタビューへの切り替えを行ったが、対面でインタビューを希望している対象者も一定数残っているため、延期したインタビュー調査及びインタビュー対象者のリクルートにかかる交通費を次年度に繰り越している。2019年度は研究の遅延から論文の作成および投稿ができなかったため、論文投稿料も次年度に繰り越している。台湾でのフィールド調査の準備のため、2020年3月以降に現地に足を運ぶ予定であったが、海外での会合にかかる予定だった旅費も使用しなかった。 2020年度は新型コロナウイルスの影響が解消され次第、遠方でのインタビューの再開、フィールド調査の準備を行う。 2019年度に開催できなかった市民セミナーの予算は次年度に繰り越し、関西だけでなく東京でのシンポジウムもしくは市民セミナーの開催を検討している。開催が決まった場合には、パネリストの交通費あるいは謝金を支出したいと考えている。
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