本研究は、わが国のがん医療に携わる心理職の質の向上と、それを担保する教育・研修システムの構築を図るために、がん医療に携わる心理職に必要とされるコンピテンス(知識と技能)を明らかにするとともに、現場で必要とされる教育・研修内容を明らかにすることを目的としている。最終年度は、全国のがん拠点病院における心理職の教育・研修の実態について調査を行い、現場で働く心理職のスキルアップのために必要な教育・研修システムについての検討を行った。 大規模調査を行うための予備的調査として、複数のがん拠点病院を対象に、がん患者家族に対する支援に従事している心理職へアンケート調査を実施した。アンケート内容は、調査対象となった心理職の属性、所属機関における心理職の教育・研修の現状、今後必要な教育・研修の機会についてであった。対象者はがん拠点病院に所属する7名の心理職で、平均年齢は41.7歳、がん臨床経験年数は平均7年であった。アンケートの結果から、所属機関内において心理職の教育・研修の機会が十分ではないこと、自己学習や院外の研修会を利用することが多いことが示された。また、がん医療において心理職に必要とされるコンピテンスに関して、「医学的知識」、「心理学的介入」、「コンサルテーション」の習得に難しさを感じやすいこと、「多職種連携」と「心理学的研究」に関する教育・研修の機会が不足していることが示された。さらに、医療機関において所属する診療科や担当する業務、在籍する心理職の人数によっても教育・研修の現状に差があることが示唆された。 これらの調査結果を踏まえ、今後は、全国のがん医療に携わる心理職を対象に、所属する診療科や業務の特徴も踏まえながら、教育・研修の実態調査、および、必要な教育・研修システムの検討を行っていくことが求められる。
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