研究実績の概要 |
研究代表者は、これまでハーバード公衆衛生大学院と共同で日本標準職業分類及び日本標準産業分類による指標である最長職業を開発した。さらに、この指標を用いて、臨床データに職業背景を融合させたビッグデータによる多施設症例対照研究を実施し、日本の各種がん及び循環器疾患の罹患リスクの職業間の差、および職業が関連する生活習慣(特に少量飲酒)を介した職業格差を初めて明らかにした。本年度は、全がんの予後格差、およびがんステージにより職業間の予後の差がどの程度説明できるかを媒介分析の手法である4-way decompositionを用いて明らかにした。神奈川県地域がん登録の32,870名を5年間追跡したところ、upper non-manualグループに対してlower non-manualグループの死亡率比は1.14(95%信頼区間1.05-8211;1.24)、manualグループで1.40(95%信頼区間1.29-1.53)であった。また、manualグループはupper non-manualグループに対して、進行ステージのオッズが1.25倍高いものの、職業間のステージの差によりtotal indirect effectとして29%(4%のmediated interactionと25%のpure indirect effect)が説明された。また、免疫応答の経路に関して、low-grade腎細胞がんの病理組織において、細胞質のhigh mobility group box 1(HMGB1)陽性率が、manualグループ群の方がそれ以外の群と比べて高かった(性・年齢調整オッズ比3.76、95%信頼区間1.03-13.7)。また職種別の加熱式タバコ喫煙の差なども明らかにした。これらの研究結果により、「命の格差をとめる」という課題が日本でも明らかになり、取組や対策を加速させるべきである。
|