重篤な感染症は、全身への炎症が進み敗血症性ショックに陥る。敗血症性ショックの初期病態は、活性酸素の産生や高サイトカインの分泌、一酸化窒素(NO)などを過剰産生し、血管が拡張して四肢末梢が温暖となり、ウォームショックを招くとして知られている。この病態に及ぼすエタノール(EtOH)の影響についての報告例はごく僅かである。本課題において、10%EtOH食を10週間与えた(EtOH)群と、EtOHと等カロリーのControl食を与えた(Control)群のラットからそれぞれ上腸間膜動脈(SMA)を摘出し、リング標本を作成した後、organ bath内に懸垂し、Phenylephrine (Ph)による収縮が最大に達したところにIL-1βを添加し、3時間の等尺性張力変化を測定した。Ph収縮の30分前に各種阻害剤による前処置を各血管で行い検討した。ラットの血液生化学・病理学的組織検査の結果では慢性EtOHによる大きな影響は見られなかった。EtOH群においてIL-1β暴露による一過性収縮が対照群と比べ増大した。この収縮はトロンボキサンA2(TXA2)受容体のアンタゴニストSQ29548より抑制された。また、EtOH群におけるTXA2の遺伝子発現も上昇し、TXA2の経路の関与が示唆された。しかし、TXA2受容体阻害剤は一過性の収縮を完全には抑制しなかった。次にTXA2受容体と相補的な関与が示唆されるUp4Aの受容体の阻害剤と併用すると、一過性収縮は抑えられた。この結果より、TXA2と相補的なUp4Aの関与も示唆された。さらにEtOH群においてIL-1β暴露による弛緩はみられなかった。 本研究から、慢性アルコールの適量摂取は、IL-1β暴露による一過性の血管収縮を強化することにより、後に続く弛緩反応を抑制することが明らかとなった。
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