必須微量元素-亜鉛(Zn)の摂取量は日本人のみならず世界的に不足しており、潜在的国民病と考えられている。この亜鉛欠乏症の生体影響として免疫機能低下が挙げられるが、そのメカニズムについては解明されていない。本研究では、亜鉛欠乏ラットを作製しマクロファージとT細胞の関係性に焦点を当て研究を遂行した。その結果、亜鉛欠乏症の免疫機能低下の機序は、体内の亜鉛量が減少することで、Th2細胞の転写因子“GATA-3”(Znフィンガータンパク)の発現が低下し、Th2細胞数の減少ならびにTh2細胞から産生されるIL-4が減少することであった。そして、このIL-4の減少によりM0マクロファージからM2マクロファージ(抗炎症型)への分化が抑制され、M1マクロファージ(炎症型) の作用が増強し炎症反応が増悪した。つまり、亜鉛欠乏症は抗炎症作用の「Th2細胞-M2マクロファージ経路」の機能を低下させることを発見した。 さらに、減少したIL-4および亜鉛欠乏に焦点を当て、亜鉛欠乏ラットにIL-4の投与または亜鉛補充を施すことで炎症反応を抑制/改善させることが可能か検討した。その結果、亜鉛欠乏ラットにIL-4の投与または亜鉛補充を施すことで、Th2細胞数、IL-4発現、およびM2マクロファージ数が増加し炎症反応が改善した。以上の結果から、亜鉛欠乏症に起因する免疫機能低下は、IL-4の投与、あるいは亜鉛補充で改善することが見出された。 さらに我々は、亜鉛欠乏症に起因する溶血性貧血と脾腫を発症することを発見し、溶血性貧血発症の機序を検討した。その機序として、亜鉛欠乏症の炎症反応の増悪により赤血球膜が脆弱した。その結果、溶血性貧血と脾腫が引き起こされることが示唆された。興味深いことにIL-4投与または亜鉛補充を施すことで、溶血性貧血と脾腫の発生を抑制させることも見出した。
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