研究実績の概要 |
本年度はヒト由来の肝星細胞の細胞株であるLX-2細胞において無機ヒ素曝露により誘導される細胞老化への酸化ストレスの寄与を検討した。細胞内の活性酸素種を様々な方法を用いて測定したが、予想に反し無機ヒ素曝露による活性酸素種の増加は認められなかった。次に、無機ヒ素曝露が細胞老化を誘導するメカニズムとしてDNA損傷に着目し、DNA二本鎖切断マーカーであるγ-H2AXのタンパク質量を測定した。亜ヒ酸ナトリウム7.5 μMを3日間曝露することでγ-H2AXのタンパク質量は顕著に増加した。このことからDNA損傷の増加が細胞老化誘導に関わる可能性が示された。 次に、LX-2において無機ヒ素曝露によってこれまで発現誘導が確認されたIL-8以外のSASP因子も増加しているか検討した。亜ヒ酸ナトリウム5または7.5 μMを6日間曝露することによってSASP因子であるIL-1β, CXCL1, MMP1, MMP3の遺伝子発現量が濃度依存的に顕著に増加していることが明らかになった。さらに、LX-2細胞におけるヒ素曝露による影響が曝露を中止しても維持されるか検討を行った。亜ヒ酸ナトリウム7.5 μMを6日間曝露し、培地からヒ素を除いてさらに5日間培養した後、各SASP因子の遺伝子発現量を測定した結果、IL-1β, IL-8, CXCL1, MMP1, MMP3は対照群と比較して有意に発現が高い状態が維持されていた。以上の結果から、ヒ素曝露によるSASP因子の発現増加は曝露を中止しても維持されることが明らかになった。 ヒト由来の皮膚線維芽細胞HFb16dにおいても、LX-2細胞と同様に無機ヒ素曝露によって細胞老化マーカーの変化およびSASP因子の発現増加が認められた。このことからヒ素曝露による線維芽細胞の細胞老化誘導およびSASP因子の発現増加は肝臓のみならず皮膚においてもおこることが示唆された。
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