研究課題/領域番号 |
18K17367
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
上林 大起 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 研究員 (50622560)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 風疹排除 / 輸入症例 / pseudotype virus / エピトープ / 中和抗体 / 手足口病 / コクサッキーウイルスA6 / 抗原性変異 |
研究実績の概要 |
①風疹輸入症例から検出された風疹ウイルス(RV)の遺伝子型を調査し、2017年のインドネシアでの流行株を「逆探知」した。 インドネシアは世界で最も風疹が流行している国の一つであり、近隣諸国の風疹流行や排除状態の維持に大きな影響を与えている。しかし、サーベイランス体制が十分構築されていないため、流行株についての情報は殆ど明らかにされていなかった。世界各国が風疹排除を進める上で、重要な情報を提供できた(Kanbayashi et al., Emerg Infect Dis. 2018)。 ②pseudotype virus(RV like-particle)の産生に必要な哺乳類発現ベクターを構築した。 RV株のB細胞エピトープの同定と中和反応に対する寄与度を明確化する為、ワクチン株を遺伝的背景に持つRV構造タンパク質発現ベクターpcDNA3.1(+)/HS-CE2E1を構築した。これまでの解析で明確化した中和抗体の反応性低下に寄与する可能性がある変異(Kanbayashi et al., J Virol Methods. 2018)を順次導入し、中和活性低下と変異の関係性を明らかにする。 ③2017年の大阪市内における手足口病流行について解析し、コクサッキーウイルスA6(CV-A6)が主要な原因ウイルスであることを明らかにした。 手足口病は、風疹と同様に発疹性疾患である。1982年の調査開始以来、大阪市内において2番目に大きい規模で手足口病が流行した。主要な原因ウイルスはCV-A6であった。検出されたCV-A6のVP1全長(915nt)を用いた系統樹解析から、検出されたCV-A6は、genetic group A3とA4に分類された。抗原性変化や感受性集団の蓄積が流行に関与している可能性が示唆された(Kanbayashi et al., Jpn J Infect Dis. 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実施計画書に記載した事項について、おおむね計画通り研究を進めることができた。それに加えて当初予定していなかったが、ワクチン接種者から網羅的にヒトモノクローナル抗体を作製する研究実施に向けて準備を進めることが出来た。当該解析の実施により、風疹ワクチンが誘導する免疫並びに風疹ウイルスの理解の深化、治療・発症予防薬の開発、サブユニットワクチンの開発など、当初の計画以上にウイルス学の発展や社会に貢献出来る知見が得られると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
【風疹ワクチンによって誘導される抗体のパネル化とエピトープの決定】ヒト血液から網羅的に抗原に反応する抗体を作製しパネル化する。その中から、中和活性等を持つ機能性抗体を探索する。ワクチンが効果を発揮できない免疫学的弱者における感染防御や妊婦の予防的並びに急性感染の治療に使用できる抗体医薬品の開発に繋がる知見を得る。また、中和活性の強い抗体が認識する部位(エピトープ)を決定し、妊婦にも使用できるサブユニットワクチンの開発など、より効果的なワクチンの創生に貢献できる基盤情報を蓄積し公衆衛生の向上に貢献する。当該研究は、B細胞1個から抗体遺伝子を増幅し、無細胞タンパク質合成系で抗体を発現させる技術を持つ外部機関との共同研究で行う予定である。 【遺伝子型2B RV株のB細胞エピトープの同定と中和反応に対する寄与度の明確化】野生型RVLPと変異型RVLPを抗原として中和抗体価を測定する。中和抗体の反応性低下に寄与した変異を同定し、同定された各アミノ酸変異の液性免疫回避に対する寄与度を明確にする。 【風疹ウイルス複製制御因子IFNλの胎盤低応答性の分子メカニズムの解明】ヒト胎盤由来細胞株について、複製制御因子IFNλの胎盤低応答性の分子メカニズムを明らかにする。 【風疹の臨床症状と相関する免疫因子(immune correlate)の同定】当所が収集した風疹患者血清パネルや患者の末梢血単核球(PBMC)を使用し、血清生化学的検査所見およびサイトカイン類の誘導量を蛋白質・mRNAの発現プロファイリングにて評価する。患者の臨床症状と採取した血液・尿・咽頭ぬぐい等の患者検体に含まれるRVコピー数との相関を解析し、風疹症状の程度と相関が認められる因子を同定する。生物活性物質である場合には、in vitro感染モデルでRV複製に与える影響を評価する。 【2018年から2019年の風疹流行要因の解明】
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度以降、ヒトモノクローナル抗体のパネル化、エピトープ決定に多額の費用を要することとなった。その為、初年度は、これまで獲得した研究費で購入した試薬の残余分を使用し実験を行った。当該研究に集中的に資金を充填することで、研究課題はもとより、ワクチンが誘導する宿主免疫並びに風疹ウイルス理解の飛躍的な向上に貢献できる成果が得られると考えられる。
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備考 |
【講演活動】 H30.10.30:平成30年度保健師研修「感染症コース」 H31.2.13:富田林保健所公衆衛生協力会「大阪府内で注意すべき感染症について
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