研究実績の概要 |
本研究の目的は、山梨大学大学院社会医学講座と山梨県甲州市とが1988年より開始し、現在も継続中である共同研究、母子保健長期縦断調査(甲州プロジェクト)を用い、妊娠初期の母親の炭水化物の摂取状況が出生後の児の発育に及ぼす影響を明らかにすることである。 本研究ではまず、1990年度から2017年度までに出生した児のデータセットを作成し、各年度別の妊娠初期の母親の食事内容について単純集計を行い経年変化を確認した。その結果、米飯の摂取頻度は減少し、パンの摂取頻度はわずかに上昇していた。また、果物、海藻類、魚介類の摂取頻度は減少し、肉類は上昇していた。 次に、妊娠初期の母親の炭水化物摂取状況と児の低出生体重(2,500g未満)との関連について検討した。低出生体重児の割合は7.6%であり、妊娠初期の母親の炭水化物摂取状況と児の低出生体重には有意な関連は認められなかった。 また本研究では、食事に関する調査内容が簡易的であるため、より詳細な食事調査を実施し、妊娠初期の母親の炭水化物摂取状況の影響を検討したいとしている。調査実施に向けてこれまで甲州市と協議を重ねてきたが、研究実施2年目、3年目では新型コロナウイルス感染症の影響で協議自体が難しくなるなど、調査実施への準備が遅れていた。最終年度では協議は再会できたが、コロナ禍で妊婦の不安が通常以上に高い状況であり、詳細な食事調査結果と出生後の児への影響についても不安を強く感じやすい可能性を鑑み、詳細な食事調査の実施は難しいとなった。 詳細な食事調査の実施は実現できなかったが、同地域における約30年間という長期間の母親の食事内容の変化を明らかにしたことは日本において数少なく重要な結果であると考える。また、炭水化物摂取状況と低出生体重との検討も、妊婦の食生活は胎児の発育や出生後の児の成長にも影響することから、意義のある研究であったと考える。
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