近年、プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を標的とした薬剤が開発され、大規模臨床試験により、その心血管イベント抑制に対する効果が次々と報告されている。現在、PCSK9は動脈硬化の新たな治療ターゲットとして注目されている。一方で、PCSK9に関して、歴史的に治療薬開発が先行し、一般地域住民における実態や心血管イベント予測能について不明な点が多い。本研究は、一般地域住民を対象に詳細な危険因子測定や潜在性動脈硬化指標、脳萎縮について調査を行ってきた既存の前向きコホート研究(SESSA)に、新たに血清PCSK9値測定を追加し、日本人における血清PCSK9値の分布やその関連要因、潜在性動脈硬化との関連について明らかにし、動脈硬化性疾患の新しい予防策開発を目的とする。 2006~2008年にSESSAベースライン調査を実施した対象者約1200人のうち、2010年から実施したSESSA追跡調査に参加した848人より、脂質異常症治療薬内服や心血管疾患既往のない622人に対して血清PCSK9値を測定し、解析を行った。 1.血清PCSK9値が高い群はより若年であり、BMIやアルコール摂取量、中性脂肪値、LDL値が高い傾向にあった。スピアマン順位相関解析では、弱い関連ではあるが、血清PCSK9値は年齢と負の相関を示し、アルコール摂取量、LDL値、中性脂肪値と正の相関を示した。 2.血清PCSK9値は、LDLや他の動脈硬化危険因子と独立して、60歳未満の対象において胸部CTにより計測した冠動脈石灰化の有病率と関連を認めたが、60歳以上の対象においては関連は認められなかった。 3.血清PCSK9値は、LDLや他の動脈硬化危険因子と独立して、頭部MRIにより計測した頭蓋内動脈狭窄の有病率と関連を認めたが、ラクナ梗塞、微小出血、白質病変などの脳小血管病変との関連は認めなかった。
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