研究課題/領域番号 |
18K17390
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
西岡 祐一 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50812351)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖尿病 / レセプト情報・特定健診等情報データベース / NDB / 時間疫学 / 空間疫学 / 臨床研究 / データベース医学 / Claims Database |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の糖尿病診療の現状を可視化し、最終的に糖尿病治療法と予後の関係を明らかにすることである。 研究代表者は、まずレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、糖尿病薬処方患者を抽出する方法を明確に規定した。その後、NDBを用いた糖尿病の記述疫学・分析疫学研究の基盤を構築した。さらに、所属する公衆衛生学講座と糖尿病学講座のそれぞれの研究者らと連携して、薬剤(糖尿病薬、降圧薬、利尿薬、脂質異常症薬、抗血小板薬、抗凝固薬、ステロイドなどをクラスごと、薬剤ごとに)、診療行為(血糖、細小血管障害、大血管障害に関連するもの)、病名(糖尿病、糖尿病合併症、がん、(類)天疱瘡、膵炎、肺炎、肥満、骨折、精神疾患、歯科疾患などに関連するもの)に関する糖尿病患者を対象とした粗集計を性年齢階級別、(患者ごとに最も多く受診した)受診医療機関所在地の市町村別に実施した。糖尿病診療の現状(薬剤処方、診療行為算定、病名付与の状況)を性年齢階級別・市町村別に可視化した。 2018年度本研究の成果として、NDBを用いて糖尿病患者における疾病の疫学特性(発症頻度、分布、関連情報)を人、場所、時間別に詳しく正確に観察し、記述する素地が整い、実際に検査項目や加算、糖尿病治療薬の処方に関する集計結果を公表することができた。 2019年度は、NDBを用いた糖尿病に関する分析疫学研究実施の基盤を構築した。 糖尿病は医療計画に記載すべき5疾病の1つであり、本研究の基盤技術や研究成果は糖尿病に対する有効な対策樹立に必須である。 糖尿病研究センター、東京歯科大学など外部の研究者とも、NDBが医学の発展に貢献すべく、積極的な意見交換を行い、必要に応じて本研究成果の基盤技術の提供を実施している。次年度以降もNDBを用いた記述疫学、分析疫学研究を実施していくとともに、NDBを用いた疫学研究の成果を発信していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 糖尿病患者数(病型、地域分布)(2018年4月~9月):糖尿病患者数集計をより精緻化し、本研究で扱う糖尿病患者の抽出方法を明確に規定する。さらに治療法や加算、病名などから、日本で初めてとなる1型糖尿病・2型糖尿病患者数の全数集計を実施、性年齢階級別・都道府県別・市町村別の頻度と分布を明らかにする。 (2)糖尿病治療の状況(2018年9月~2019年3月):検査項目や加算、糖尿病治療薬の処方に関する頻度や分布を集計する。たとえば、認知症患者や透析患者の治療の現状など、性年齢階級、都道府県、併存疾患に応じた治療内容の違い(statics)及び治療の変化の違い(dynamics)について分析する。 (3)コホートの構築(2019年4月~2020年3月):性年齢階級、都道府県、医療保険の種類、糖尿病治療薬の処方状況、アウトカムの指標(全入院・低血糖、医療費、がん、透析など)を統計ソフトで分析可能な状態に加工する。約770万人の大規模コホート、表形式で2億行程度の個人別、医療機関受診別のデータに加工することを想定している。 (4)コホート研究(2020年4月~2022年3月):統計ソフトを用いて時間的空間的な広がりも鑑みてモデル化する。最終的に、糖尿病治療薬の種類と低血糖による入院の関係や糖尿病治療薬の種類と医療費の関係を明らかにする。
上記の研究計画に従い、(1)、(2)、(3)の順でおおむね予定通り進展した。2018年度の成果として、NDBを利用した糖尿病の疫学研究の基盤が整い、糖尿病患者に関するさまざまな単純集計が可能となった。2019年度の成果として、糖尿病大規模コホート研究の実施基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、NDBを用いた記述疫学研究、分析疫学研究を行う基盤技術を構築してきた。 2019年度はNDBを用いた糖尿病コホートを統計ソフトで分析可能な状態に加工した。また、コホート化により可能になった、各種アウトカムの発生率、死亡率について、学会発表、論文化等を通じて公表してきた。 2020年度、2021年度に関しては、2018~2019年度に構築した環境を用いて、リサーチクエスチョンに応じたデータ加工を行った上で記述疫学研究・分析疫学研究を実施し、成果を公表していく予定である。 本研究により得られた知見や基盤技術はNDBを用いた研究全般に応用可能なものも多い。NDBから生まれたさまざまな疾患に関係するエビデンスを世界に発信していけるよう、知見を集積、公表していく。
ただし、2019年度末から新型コロナウイルス感染症の影響により、対面打ち合わせを延期せざるを得ない状況である。物品の購入・納品にも大幅な遅れが出始めている。今後の研究に関して可能な限り研究計画通りに進めたいと考えているが、現時点では研究進捗の見通しが立たない部分もある。今後状況に応じて適切に対応していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究は滞りなく実施できていたが、2019年度末から新型コロナウイルス感染症等の影響により、主に物品の購入・納品に遅れが出てきている。さらに、対面での打ち合わせや学会等も次々に延期となり、出張が予定より大幅に減った。また、人件費・謝金を支払うべき作業依頼についても遅れがみられはじめている。このため、次年度使用額が発生したが、当初の使用計画に沿って使用する予定である。
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