研究課題
本研究の目的は、日本の糖尿病診療の現状を可視化し、糖尿病の臨床疫学研究を通じて糖尿病学に貢献することである。2018年度の成果として、まずレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、糖尿病薬処方患者を抽出する方法を明確に規定した。その後、NDBを用いた糖尿病の記述疫学・分析疫学研究の基盤を構築した。さらに、所属する公衆衛生学講座と糖尿病・内分泌内科学講座の研究者らと連携して、NDBを用いて糖尿病患者における疾病の疫学特性(発症頻度、分布、関連情報)を人、場所、時間別に詳しく正確に観察し、記述する素地が整えた。さらに、実際に糖尿病診療の現状(薬剤処方、診療行為算定、病名付与の状況)を性年齢階級別・市町村別に可視化した。2019年度は、NDBを用いた糖尿病に関するTarget Trial Emulationを意識した分析疫学研究実施の基盤を構築した。2020-2021年度については、構築した基盤をもとに実際に分析疫学研究を実施し、論文化した。たとえばNDBから重症低血糖直後に急性冠症候群の発生率が高いことを証明し、低血糖のリスクを明確に示した。また、1億人を対象にした1型糖尿病発生率の解析から、20歳未満には季節性があること、さらに、インフルエンザ感染後に1型糖尿病発生率が上昇することを示した。これらは1型糖尿病の病因解明に寄与し得ると考えられる。また前述のレセプトにおける糖尿病定義のバリデーション、更には糖尿病患者の死亡時年齢の記述疫学研究を実施した(2021年度末論文投稿中)。糖尿病は医療計画に記載すべき5疾病の1つであり、本研究の基盤技術や研究成果は糖尿病の病因解明の手掛かり、糖尿病に対する有効な対策樹立に必須である。引き続き大規模医療データベースを用いた記述疫学、分析疫学研究を実施していくとともに、疫学研究の成果を学会発表や論文を通して発信していく。
2: おおむね順調に進展している
(1) 糖尿病患者数(病型、地域分布)(2018年4月~9月):糖尿病患者数集計をより精緻化し、本研究で扱う糖尿病患者の抽出方法を明確に規定する。さらに治療法や加算、病名などから、日本で初めてとなる1型糖尿病・2型糖尿病患者数の全数集計を実施、性年齢階級別・都道府県別・市町村別の頻度と分布を明らかにする。(2)糖尿病治療の状況(2018年9月~2019年3月):検査項目や加算、糖尿病治療薬の処方に関する頻度や分布を集計する。たとえば、認知症患者や透析患者の治療の現状など、性年齢階級、都道府県、併存疾患に応じた治療内容の違い(statics)及び治療の変化の違い(dynamics)について分析する。(3)コホートの構築(2019年4月~2020年3月):性年齢階級、都道府県、医療保険の種類、糖尿病治療薬の処方状況、アウトカムの指標を統計ソフトで分析可能な状態に加工する。約770万人の大規模コホート、表形式で2億行程度の個人別、医療機関受診別のデータに加工することを想定している。(4)コホート研究(2020年4月~2022年3月):統計ソフトを用いて時間的空間的な広がりも鑑みてモデル化する。上記の研究計画に従い、(1)、(2)、(3)、(4)の順でおおむね予定通り進展した。2018年度の成果として、NDBを利用した糖尿病の疫学研究の基盤が整い、糖尿病患者に関するさまざまな単純集計が可能となった。2019年度の成果として、糖尿病大規模コホート研究の実施基盤が整った。2020年度~2021年度はその基盤を活かして臨床研究を実施し、論文化している。また、構築した基盤をNDBのみならず国保データベース(KDB)や商用データベース(JMDC Claims Database、DeSCデータベース)にも横展開し、レセプト研究を飛躍的に発展させるべく研究を実施していく。
これまで、NDBを用いた記述疫学研究、分析疫学研究を行う基盤技術を構築してきた2019年度はNDBを用いた糖尿病コホートを統計ソフトで分析可能な状態に加工した。また、コホート化により可能になった、各種アウトカムの発生率、死亡率について、学会発表、論文化等を通じて公表してきた。2020年度~2021年度はより本格的に臨床疫学研究を実施し、成果を学会発表・論文として公表した。例えば重症低血糖と急性冠症候群、1型糖尿病発生率の季節性、インフルエンザと1型糖尿病発生率の関連など、糖尿病やその合併症の病因に迫る具体的な臨床研究成果を発信した。また、レセプトにおける糖尿病の定義や糖尿病患者の死亡時年齢に関する記述疫学研究などの研究成果も発信し、レセプト研究や糖尿病医療に貢献してきた。2022年度に関しては現在査読中の論文を中心に、記述疫学研究・分析疫学研究を実施していく予定である。本研究は開始時点から疫学研究において疾患定義を明確に規定することの重要性を意識しつつ進めてきたが、ここ数年レセプト研究等のAdministrative Claims Databaseを用いた研究が世界的に増加してきている。その意味においても本研究で構築してきた疾患定義や分析手法などを学会発表・論文を通じて公表していくことの重要性がますます高まっている。本研究により得られた知見や基盤技術は、NDBをはじめとする日本の大規模医療データベースを用いた研究全般に応用可能である。国民皆保険制度を有する日本ならではのレセプト研究から生まれたさまざまな疾患に関係するエビデンスを世界に発信していけるよう、知見を集積、公表していく。
今年度に投稿した論文が現在査読中であり、2022年度の引き続きの研究が必要となった。現在査読中の論文に対する対応を中心に、次年度への人件費や英文構成費・論文投稿費の繰り越しが発生しており、それらに残額を使用する予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (30件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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